学校へ行く途中、すれ違う人や耳に入ってくる会話などがどれも記憶にあるものと重なった。
それらが、自分が本当にタイムスリップしてきたのだと教える。

私の記憶が確かなら、この日の朝私は彗から声をかけられたけど、気まずくて無視をしてしまった。
それなら今日も……。



「ひな」



ーーきた。

小走りで学校につき昇降口で靴を履き替えていると、背後からの低い声が私の名前を呼んだ。

ゆっくりと振り向くとそこにいたのは、白いセーターにブレザーを羽織り、マフラーを巻いた彗だ。
彼は私を見ると少しぎこちなく笑う。



「おはよ。あのさ、昨日……」



彗だ。

赤茶色の髪、くっきりとした二重の目。
私より頭ひとつ近く高い位置にある顔。
緊張すると髪をかく癖。
それらひとつひとつ、どれをとっても間違いない。彗本人だ。



「彗……」



もう二度と会えないと思っていた彗が、目の前にいる。
それがとても嬉しくて、涙があふれだした。



「えっ!?ひな!?」

「彗、彗っ……」



葬儀のときも、涙は出なかった。きっとそのときにはもう心は壊れてしまっていたから。
彗の死が受け入れられなくて、ただ絶望感しかなかった。

だけど、今こうして彗の姿を目の前にして涙が止まらない。


本当は、とてもとても悲しかった。
喪失感で胸が張り裂けそうなほど苦しくて、つらかった。

壊れたままだった胸が、痛みを取り戻す。



涙をこぼし続ける私に、彗は驚き戸惑うようにオロオロとした。
次第に周囲の視線がこちらへ集まっていることに気づいて、「とりあえずこっち」と手を引いて歩き出した。



私の手を掴む、冷え切った大きな手。
その感触がまた、これが夢じゃないと知らせる。