違和感を覚えながら一階へ降りると、ドアを開けたままのリビングからは、コーヒーの香りとエアコンの暖気が漂う。
いつもと変わらないその景色をなにげなく通り過ぎようとした、そのとき。


『それでは次のニュースです。昨夜、人気バンドのRED LEAVEが解散を発表しーー……』


テレビから聞こえたニュースの音声が耳に留まった。

あれ、このバンドってもう何日も前に解散発表してなかった?
たしか彗が好きなバンドで、クラスでも女子が嘆いていた姿を見た。このニュース画面も見た覚えがある。

なのにどうして今更……。



「あ、そうだ。朝人身事故でダイヤ乱れてるようなので、余裕を持って出たほうがいいかもしれないです」



考えていると、私の部屋から降りてきた美智子さんがベッドのシーツを抱えながら言った。

あれ、この会話も、光景もどこかで覚えが……。
俗に言うデジャヴというやつだろうか。記憶をたどりながら、ある可能性に気づいて私は美智子さんに問いかける。



「美智子さん、今日って何月何日?」

「え?12月3日ですけど?」



12月、3日……!?

私の最後の記憶は、終業式のあった20日だ。
それがどうして3日に?

それに、12月3日といえば。

慌てて2階の自室へ戻ると、ベッドの上で充電器につながれたままの自分のスマートフォンを手に取った。

そこに書いてある日付はたしかに12月3日の火曜日。
そして、メッセージアプリには彗からの『ごめん』というメッセージが昨夜の日付で届いていた。



「やっぱり……」



3日は、彗と喧嘩をした日の翌日。
私はこの日から一週間、彗と口を聞くこともなく距離をとった。
5日後に、彼が亡くなるとも知らずに。

つまり私は、過去に戻ってきた……タイムスリップしてきたということ?

いや、そんな非現実的なことが起きるわけがない。
だけど……現に日付は過去のものだし、彗からもメッセージがきている。



信じられない気持ちでいっぱいになりながらも、他になにか手がかりはないだろうかと私は自分の鞄や制服のポケットなどを探る。

すると内ポケットには小さな巾着袋が入っていた。
中身を取り出すと、それは白く硬い破片だった。

それはあの日もらった彗のかけらで、私が彼の葬儀に参列したということ、ここにタイムスリップしてきたということの証拠だ。



12月3日ということは……この世界ではまだ、彗は生きているということ?

そう思うといてもたってもいられず、私は大急ぎで顔を洗い制服に着替えると、朝食もそこそこに家を出た。