『あの……ひなちゃん、よね』

『え……?どうして、私のこと』

『彗が自慢の彼女だってよく写真を送ってくれていたから。よかった、会えて』


彗のお母さんは安堵したように笑う。
『ひなの』ではなく『ひな』という呼び方から、彗の呼び方がうつっているのを感じた。

話を聞きながらなにげなく見た先の、その右手に握り潰された涙の染み込んだハンカチがまた胸を締め付けた。



『明日の葬儀は身内だけで行う予定なんだけど、よかったら来て。最後まで見送ってあげてほしいの』

『えっ……でも、いいんですか』

『もちろん。彗もきっと、ひなちゃんが来てくれたら喜ぶと思う』



そう言ってくれたことに、いいのだろうかと戸惑いながらも私は参列させてもらうことにした。

翌日の葬儀は大勢の参列者がいた通夜とは違い、20名程度の親族のみがあつまった小規模なものだった。
その分空気の重みは前日以上で、親族の中で明らかに異質な私の存在を誰かが問う余裕もないくらい、張り詰めた空気だった。

特に葬儀を終えてから向かった火葬場では、これまで以上の絶望、失意、悲しみが場内を覆った。
彗の体が焼かれる、その事実を思えば当然かもしれない。

それまで気丈に振舞っていた彗のお母さんも、棺が炉に入った途端泣き崩れ動けなくなってしまっていた。

そこでも私は、ただぼんやりとするだけで涙の一滴も出なかった。
ただひとつ感情が込み上げたのは、火葬を終え彗が骨になったのを見たとき。

私より20センチ近く背が高く、細身だけど大きな背中をしていた。そんな彗の体が、わずか数グラムの骨になった。

あぁ、もうこれで本当に彗とは会えないんだ。

そう思ったら、すがるような思いがようやく込み上げた。



『……すみません。ひとかけらだけで構わないので、彗の骨をいただけませんか』



私は骨になった彗のとなりでぼそ、とつぶやくように言った。
それを聞いて、彗のお母さんは少し驚きながらも嫌な顔ひとつ見せずに、涙で濡れた顔のまま頷いた。

そして係員の元へ行き、短くなにかを伝えるとすぐ戻ってきて、小さな骨をくるんだハンカチを私に手渡した。



『彗の、左手小指の骨のかけらだよ』



指の先ほどもない小さな白いかけらは、風が吹けば飛んで消えてしまいそうだ。
だけどそれは、この手を握る彗の指先のぬくもりを思い出させて、この胸をぎゅっと締め付けた。