それから土日は塾に通い詰め、週が明けた月曜日。
スマートフォンの画面に表示される日付は12月2日と、あっという間に今年最後の月となってしまった。
「永井」
朝登校して廊下を歩いていたところ、声をかけてきたのは担任の福間先生だった。
20代後半のまだ若い男性教諭の福間先生は、眼鏡に小柄な体型で生徒からも親しまれる人気の先生だ。
「福間先生、おはようございます」
「おはよう。教室行く前に少しだけいいか?」
人のよさそうな笑顔を見せる先生に小さく頷くと、ふたりで廊下の端に留まった。
「この前出してもらった進路希望あるだろ?永井の志望校、国立大学の医学部だったよな」
その言葉に思い出すのは、先日提出した進路希望用紙のこと。
進学や就職など今後の進路についての希望を書くその用紙に、私はもちろん父の望む国立大学の医学部の名を記入した。
「はい、そうですけど」
「そっか。先生はてっきり永井は文系だとばかり思ってたから意外でさ。
ほら、前に小論文コンクールで賞もとってただろ?あれもすごくよかったよ」
福間先生は、とてもいい先生だ。
生徒ひとりひとりの成績や得意科目など、細かく見てくれている。
それは私に対しても同様で、進路に疑問を持ってくれたのだろう。
だけどその優しさが、私には少し困る。
「……医学部以外、選択肢ないので」
ぽつりとつぶやいた私に、先生は困ったように眉を下げると肩をポンと叩いた。
「家の事情もあるだろうけどもう少し考えてみな。自分の人生、自分の意思を通すのも大切だぞ。
なにかあれば先生も力になるから」
そう言葉をかけると、先生は職員室の方向へと歩き始めた。
……自分の意思、か。
そんなの通せるわけがない。
『余計な夢を見るんじゃないぞ』
父の言葉を思い出し、気持ちがズンと沈んだ。