ふと目を覚ますと、目の前には見慣れた天井が広がっていた。

白い天井についた丸いライトに、茶色い廻り縁。それらは引っ越してきてから毎日のように見ている、俺の部屋の景色だ。



『え……?』



俺、事故に遭ったんじゃ……?

驚き自分の手や体を見るけれど、痛くないどころかケガひとつしていない。
あれはもしかして夢だったのだろうか。
だとしたら嫌な夢を見た。

ところが手に取ったスマホの画面には【12月3日】という過去の日付が記されていた。

意味がわからなかった。
俺が一度過ごした12月3日は夢だったのかもしれない。そう思ったけれど、流れるニュースや祖父との会話。通学路で見かける光景、周りが話す内容などどれも覚えのあるものばかりだった。



もしかして俺……事故より前の日付に戻ってきたということ?

にわかには信じがたい。けれど、あれが夢だと簡単には片付けられない。

記憶が確かなら、この日の俺はひなにメッセージを無視され、昇降口で声をかけても走って逃げられてしまった。
けれどひなは、俺と会った途端涙をぽろぽろとこぼした。



『彗……』



いつも崩れることのない表情をした顔を、くしゃくしゃにして泣きながら、ひなは昨日のことを謝った。
そして、なにかを決心した様子で俺に真っ直ぐ向き合った。



『これから先の一週間、私にちょうだい』



他のことは全て記憶通りなのに、唯一違うひなの言動。
それらから、ひなも俺と同様にタイムスリップしてきたんじゃないかと思った。

それは最初は、予想でしかなかった。
けれど、岡澤のもとへ行った際のひなとのやりとりの中



『なんでだろうね。俺死ぬのかな?』



冗談めかして言った俺に、ひなは顔を強張らせ言葉を失った。
それを見て、はっきりと確信した。

ひなは、俺の死後からやってきたんだ。
そして今、もしかしたら俺を助けようとしてここにいるのかもしれない。