朝谷がなんでゲームセンターであのフィギュアを取るのにこだわっていたのかも。

 花を夜倉に渡したこと・母親のことを話そうと意を決したこと。

 それだけでも夜倉は嬉しかった。

 口元が緩みそうなのを夜倉は手で押さえる。

「…あと、これ俺から…」

 夜倉が持っていたものを朝谷に渡す。

「これって…香水?」

「そう。開けてみて」

「なんだろう。うわぁーおしゃれ!」

 朝谷はフェンスに寄りかかり、香水を持ち、香水の全体を確認した。

「オーデ ジバンシイ オーデトワレ。陽気な明るさと生きる喜びを表現したモダンで気品のある香り。朝谷にぴったりだと思って。よかったらつけてみて」

 夜倉があげた香水をつけるように言うと、朝谷は手の甲につけて匂いを嗅ぐ。

「いい匂い、これ俺好きだわ。いい!」

 朝谷はえくぼが出ていて、笑みをこぼしていた。

「よかった……」

 夜倉はフェンスに手を付けて、両膝を抱え込んで、座り込む。

「俺が喜ばないとでも思ったの?」

 首を傾げて朝谷は夜倉に問いかける。

「好みとか分からないし。好きな物とか分かるけど、人それぞれ匂いって違うから」