「……俺さ、なんで花が好きかというと母さんが好きだったからなんだ。意外でしょ?」
朝谷は空を仰いで、上を見上げたまま夜倉に声を上げる。
「…誰かの影響はあったのかと思ったけどね。お母さんか」
夜倉は朝谷の言葉に頷いていた。
「…中学1年になった頃、母の日に花を渡したんだ。そしたら、今まで見た中で一番いい顔をしていた」
朝谷は下を向きながら、また顔を上げた。
フェンスの方に行き、フェンスに掴み、朝谷は外にある木々を眺める。
「……いい顔してたんだな」
足元を見つめていた夜倉は顔を上げて、朝谷が行ったフェンスに足を踏み出す。
風がなびいて、夜倉の前髪がピョンとはねる。
「……ほんとに嬉しそうだった…」
朝谷は顔に風を感じながらも、思い出すように声を出す。
「……そっか……」
返事をした夜倉は朝谷の顔を優しく見つめる。
「………っ……っ…イベントじゃなくても、花を渡そうと思って、花言葉を調べて、渡した。でも、母さんは仕事を頑張りすぎて亡くなった……俺は母さんになにもしてやれなかった……。うぅうぅ………うぅうぅ」
朝谷は目に涙を浮かべて、海の洪水のように出てくる。
手の甲を目で擦って擦っても出てきた。
ポンポンと肩をリズムよく叩き、夜倉は空を仰いだ。
多分、見られたくないと思った。
夜倉だったら、見られたら恥ずかしいし、人前で泣いた自分に後悔する。
誰だって見られたくない部分はあるから。
「……逆に母さんに頑張りすぎてしまった。だから、せめて、好きだったフィギュアでもあげようとゲームセンターに通ったけど、いまだに取れない。母さんに取るって約束して結構経つのにな。俺ダメだよな」
朝谷は思い切り顔をクシャクシャにして、笑って泣いていた。
子どものように悲しさを洗い流すように泣きじゃくていた。
母親の顔を思い浮かべているのだろう。
母親とした約束を守れない自分に腹が立つし、フィギュアを取りたい意味がようやく分かった気がした。
「……朝谷は頑張ったよ。母親に喜んでもらいたくて、それだけだったんでしょ。母親にとっては息子にもらえたなら嬉しいに決まってる。プレゼント渡すのだって勇気いるし」
前髪をかき分けて、優しく微笑んだ夜倉は朝谷に言葉をかける。
「……話そうと思ったのはよっちゃんが言ってくれたからだよ」
朝谷は鼻水を啜り、まだ涙目になっていて充血していたが、鼻声だが伝えようとしていた。
「え? 俺なんか言った?」
とぼけた夜倉はまた地面を視点に置いた。
夜倉は本当に分かっていない。
朝谷にとって夜倉は影響力があるのは自覚していない。
「言った。気づいてないならいいよ」
朝谷にとっては夜倉の言う言葉ひとつひとつが花びらみたいに夜倉の言動が浮かんで落ちていく。
それに夜倉は気づいていない。
些細なことだけど、それがよかった。
冷たくて無表情な割に、好きなものには楽しんでいて、自分の世界を大事にしている。
それが朝谷にとってはよかった。
朝谷は空を仰いで、上を見上げたまま夜倉に声を上げる。
「…誰かの影響はあったのかと思ったけどね。お母さんか」
夜倉は朝谷の言葉に頷いていた。
「…中学1年になった頃、母の日に花を渡したんだ。そしたら、今まで見た中で一番いい顔をしていた」
朝谷は下を向きながら、また顔を上げた。
フェンスの方に行き、フェンスに掴み、朝谷は外にある木々を眺める。
「……いい顔してたんだな」
足元を見つめていた夜倉は顔を上げて、朝谷が行ったフェンスに足を踏み出す。
風がなびいて、夜倉の前髪がピョンとはねる。
「……ほんとに嬉しそうだった…」
朝谷は顔に風を感じながらも、思い出すように声を出す。
「……そっか……」
返事をした夜倉は朝谷の顔を優しく見つめる。
「………っ……っ…イベントじゃなくても、花を渡そうと思って、花言葉を調べて、渡した。でも、母さんは仕事を頑張りすぎて亡くなった……俺は母さんになにもしてやれなかった……。うぅうぅ………うぅうぅ」
朝谷は目に涙を浮かべて、海の洪水のように出てくる。
手の甲を目で擦って擦っても出てきた。
ポンポンと肩をリズムよく叩き、夜倉は空を仰いだ。
多分、見られたくないと思った。
夜倉だったら、見られたら恥ずかしいし、人前で泣いた自分に後悔する。
誰だって見られたくない部分はあるから。
「……逆に母さんに頑張りすぎてしまった。だから、せめて、好きだったフィギュアでもあげようとゲームセンターに通ったけど、いまだに取れない。母さんに取るって約束して結構経つのにな。俺ダメだよな」
朝谷は思い切り顔をクシャクシャにして、笑って泣いていた。
子どものように悲しさを洗い流すように泣きじゃくていた。
母親の顔を思い浮かべているのだろう。
母親とした約束を守れない自分に腹が立つし、フィギュアを取りたい意味がようやく分かった気がした。
「……朝谷は頑張ったよ。母親に喜んでもらいたくて、それだけだったんでしょ。母親にとっては息子にもらえたなら嬉しいに決まってる。プレゼント渡すのだって勇気いるし」
前髪をかき分けて、優しく微笑んだ夜倉は朝谷に言葉をかける。
「……話そうと思ったのはよっちゃんが言ってくれたからだよ」
朝谷は鼻水を啜り、まだ涙目になっていて充血していたが、鼻声だが伝えようとしていた。
「え? 俺なんか言った?」
とぼけた夜倉はまた地面を視点に置いた。
夜倉は本当に分かっていない。
朝谷にとって夜倉は影響力があるのは自覚していない。
「言った。気づいてないならいいよ」
朝谷にとっては夜倉の言う言葉ひとつひとつが花びらみたいに夜倉の言動が浮かんで落ちていく。
それに夜倉は気づいていない。
些細なことだけど、それがよかった。
冷たくて無表情な割に、好きなものには楽しんでいて、自分の世界を大事にしている。
それが朝谷にとってはよかった。