走って、ようやくたどり着いたのは屋上だった。

「屋上はじめて入ったよ。入れるんだ」

 夜倉は見たことのない景色を見ているようで不思議だった。

「…ここいいよね。あまり入れないんだけど、鍵いつも閉まってないんだよね」

 朝谷は両腕を伸ばして、深呼吸をする。

 鱗雲でもう秋だと感じさせられる雲だ。

 魚のうろこみたいに広がった雲は眩しくて、泳いでいるようだった。

「ここさ、誰も来ないんだよね。実は。穴場なんだけよな」

 朝谷は急にラジオ体操をして、また深呼吸をする。

「ふーん、そうなんだ。この景色見れないなんてね…」

 地面を見て歩きながら、夜倉は興味なさそうに言う。

「……よっちゃんさ。これ」

 朝谷は手にしていたものを夜倉に渡した。

「これは……」

 夜倉が手にしたものを見ると、花だった。

「花。この花分かる?」

「分かんない」

 手にした花を夜倉は鼻で匂いを嗅ぐ。

「これは白の彼岸花。この花ってあの世とかのイメージが強いけど。俺はこの花は好きなんだ。意味はあえて言わない。けど、プラスの方で捉えてもらって」

 朝谷は照れくさそうに頬をかいて夜倉に言う。

 その姿を見て、夜倉はクスッと笑ってしまった。

「なんだよ」

 ムスッと口を膨らませて、朝谷は夜倉に言い返す。

「別に」

夜倉はなに?と知らないフリをした。