夜倉は走った。

 保健室にある1階まで下りて、人にぶつかりそうなのをうまくよけた。

 走る夜倉に教科書を持っている生徒はその光景に目を見開いていたが、なぜか首を縦に振って頷いていた。

 夜倉が走ったことで何かを感づいたのか分からないが、温かく見守っていた。

 夜倉が知らない生徒だが…

「はぁはぁぁはぁ……」

 バイトに遅刻しそうになった時しか走ったことがなく、運動不足なので息切れがすごい。

 体育では軽く運動するくらいだし、たまに走るのはほんとバイトくらいだ。

 ガラッと保健室のドアを開ける。

 そこには朝谷がいた。

「朝谷」

 ゼェゼェとして息を整わせてから、夜倉は朝谷の名前を呼ぶ。

「あら。友達かな。これで終わりだからな。あまり手動かさないでね」

 保健の先生は朝谷の手当てが終わったのか、救急箱を閉まって保健室から出て行った。

 いなくなったことで空気がガラッと変わり、朝谷と夜倉は沈黙が続いた。

「………っ……大丈夫なのか」

 喉からいろんな言葉が溢れているが、夜倉はこれが精いっぱいだった。

 朝谷はパイプ丸椅子に座っていて、目の前にいる夜倉も朝谷の近くにあったパイプ丸椅子に座る。

 目の前に夜倉が来たことで朝谷は目を逸らす。

「…体育してたら、突き指しただけ。だから、今先生に湿布張ってもらった」

 目を泳がせて朝谷は言葉を返す。

「…そうなんだ」

 夜倉は朝谷の湿布を張った左薬指を見る。

 痛そう。

 運動したのか。