「よく見てるね。昼越」

 頬杖をつけて、夜倉はそっぽを向く。

「分かりますよ。学年は違うけどたまたま師匠と朝谷さんが話している所見たんです。けれど、最近見ないと思って」

 昼越は頼んでいたコーヒーを口に膨らませて、コップをテーブルに置く。

 夜倉が見ていないところで昼越は夜倉を見ていたのだ。

「……普通だよ。バイトでは会うし。それ以外は話さないけど。前の距離に戻っただけだから」

 笑っている子供と両親の顔を見て、幸せそうだった。

 夜倉は羨ましかった。

 夜倉には家族全員でファミレスでの食事をした経験がなかった。

 兄貴は一回あるよと言われたが、夜倉は小さいときだったので覚えていない。

 キラキラで愛情たっぷりに愛情を愛情を注ぐ光景は遠くて手が届かない。

「師匠。そんなこと言って今なんでそんな顔してるんですか。いつもの冷静で香水を楽しそうに教えてくれる師匠はどこにいるんですか。クラスではクールで香水以外に笑いもしないのに。今、師匠、泣きそうな顔してるの自覚してますか」

 昼越は夜倉の右袖を掴み、訴えてきた。

 その言葉に夜倉は昼越の方に目を向けて、口を閉じる。

「前髪。上げた方がお似合いですよ。まぁ、あげてもあげなくても大体師匠分かりますから」