たまに、お客の迷惑にならないようにしてよと注意をして、最初よりは静かにブツブツと呟くようになった。

 夜倉は店員で朝谷はお客の立場だが、一友達としても言葉を交わすようになった。

 朝谷がUFOキャッチャーでやっている姿を見て、その視線を感じたのか満面な笑みで手を振ってくる。

 視線を外してから、夜倉は仕事に戻っている。

 たまに視線を感じると思ったら、朝谷は夜倉を見ていた。

 夜倉はすぐ視線を外して、目を泳がせる。

 仕事どころではなかった。

 たまに店長に注意されたくらいで済んだ。

 迷惑をかけた訳ではない。

 戸惑いと嬉しさが混在して、夜倉は変になっていた。

 身体中温かくて、朝谷が誰かと話すところを見たら、冷えて苦しくなる病気に。

 病気というより恋わずらいという言葉ふさわしい。

 夜倉はネットで検索して、いろんな検索をしたら、この言葉に至った。

 夜倉は悩んでいたが、恋わずらいは食欲不振や睡眠不足にも陥るという。

 その通りになっているので、夜倉一人で頷いていた。

 解決はしないらしい。

 こんな気持ちになったのは初めてだし、恋をするとこんなにもなるのかと。

 夜倉はただ過ごす日々を楽しいと思えることに幸せを感じている。

 香水以外のことを目に向けるようになったことが夜倉にとって大きな進歩だ。

 だけど、朝谷にこの思いを伝えたら、どうなる。

 喜んでくれるのだろうか。

 今も俺を好きでいてくれるのだろうか。

 いっそ、このままでいんじゃないかとさえ思う。

「……っ…そう……それでいんだ……」

 夜倉はUFOキャッチャーのぬいぐるみがズレていたのでほんの少し動かして、誰にも聞こえない声で発する。

 何も望まない。

 夜倉はこの生活に楽しさを覚えた。