朝谷は夜倉の方を見ずに、家族写真を持って、目を見据える。

 堪えられない気持ちが今にも溢れそうなのか朝谷は申し訳なさそうに下を向いて声を落とす。

「分かった…」

 朝谷の態度に驚きながらも、お茶のペットボトルを持ち、まだ口内に入っていたパンを胃に流すようにお茶を飲む。

「ごちそうさま。お茶はまだ残ってるからもらっていく。じゃあ」

 夜倉はそう言って、朝谷の家から出ていく。

 扉を閉めて、夜倉は扉に寄りかかって、ズルズルと身体が崩れ落ちる。

「……はぁ……」

 夜倉はため息を吐いて、一人呟く。

 朝谷。苦しかったんだな。

 分かるよ、わかる。

 俺も思い出すだけで苦しい。

 抑えていた感情が溢れ出しそうになるのをまた抑えて、夜倉はその扉を閉める。

 ほんの一瞬のことでも涙一滴を垂らしたら、もう涙から引き返せない。

 すぐ涙が出てきそうになる感覚は、言葉に出さなくても親が死んだ経験した人しか分からない。

「………っ……」

 夜倉はドアの前に座り込み、両拳を握って、抑えていた感情を握り拳に込める。

 それだけでも自分の中に感じるものがあると確信する。

 夜倉はそのまま座ったまま、思い出していた。

 亡くなった父のことを。

 朝谷もそうなんだろう。

 なぁ、朝谷。