思い出になるまでにどのくらいの時間を要したのだろう。

 夜倉は父が亡くなってからは、母親のメンタルを保たたせるのに大変だった。

 誰にも言っていないが、兄貴もいる。

 兄貴はとにかくクズだった。

 家族のことは二の次。

 酒・ギャンブル・女性で成り立っている男だ。

 俺がなんとかするしかない。

 必死で母親の声に届こうと努力した。

 父親がここにいたら、違かかったのではないかと思って、何度も何度も恨んだ。

 穏やかに微笑んでいる朝谷を夜倉は見て、ここまで笑顔になるまでに何が起こったのか気になった。

 朝谷と夜倉は見つめあって、感じ取る何かがあった。

 触れそうで触れない。

 ペットボトルが落ちなかったら、何分間でも目を見つめあっていただろう。

 目だけで話していたと思う。

 夜倉は落ちた音がして、この瞬間を何度も味わいたいという感情が沸きだった。

 朝谷に告白をされて、この感情を消したい・消せない思いが行ったり来たりした。

 目を見つめる度に、夜倉は思った。

 この思いは消したくないと。

「……頑張ったんだな。朝谷」

 夜倉が持っていた感情を朝谷と重ねって、夜倉は亡くなった父のことを思い出す。

 朝谷は家族写真を手にしたまま、夜倉の言葉に目を丸くした。

「よっちゃんは優しいね、やっぱり……」

 目を細めて、家族写真を置く。

 夜倉はカーペットに座り、どうした?とお茶のペットボトルを一口飲んでいた。

「……なんでもないよ。これ飲んだら家に帰った方がいんじゃない」

 朝谷は急に帰れと夜倉に言ってきた。

「どうした?」

 前髪をかき分けて、家族写真の前で下に俯いている朝谷は今にも泣きそうであった。

 泣きそうになる朝谷は泣かないように目を瞑って堪えているようだった。

「朝谷……」

 夜倉は朝谷を大切そうに朝谷を呼ぶ。

「ごめん、本当。よっちゃん…」