「なに、どうしたの? 今日ダメだったんじゃないのかよ」

「…いや、それが…聞いてくれます?」

 眉を下げて、昼越は涙目になっているようだった。

「それって、話長くなりそうだよね?」

 昼越は香水以外で何かあると、愚痴を言ってくる。

本人にとってはむかつくことだったり、傷つくことの一部かもしれないが、毎回は勘弁してくれと思う。

「長くないですよ!」

 昼越はいつもそう言うのが定番のネタの様になってきた。

「……っ…話するにあたり、何を話すのか一つの単語で応えて」

 話は長いのは勘弁なので、単語一つだけで何を話すか分かる。

「……悪口」

 愚痴じゃないのか。ただ聞いてほしいだけか。

「…それだけなら、もう香水のこと教えないからな」

 夜倉は昼越のことをほったらかして、歩き始めた。

「師匠! だって、ひどいんですもん。いつも一言多い担任」

 昼越は夜倉の後ろをついてきて、言葉を重ねてくる。

「ああ、自分が正しいと思っているからな。聞き流す」

夜倉はため息を吐いて振り返り、まばたきをする。

「……分かりましたよ。んで、今日の香水のテーマは「レモン」でしたよね」

「ああ。今日もサイゼリアでな。行くぞ」