「なに、どうしたの? 今日ダメだったんじゃないのかよ」
「…いや、それが…聞いてくれます?」
眉を下げて、昼越は涙目になっているようだった。
「それって、話長くなりそうだよね?」
昼越は香水以外で何かあると、愚痴を言ってくる。
本人にとってはむかつくことだったり、傷つくことの一部かもしれないが、毎回は勘弁してくれと思う。
「長くないですよ!」
昼越はいつもそう言うのが定番のネタのようになってきた。
「……っ…話をするなら、何を話すのか一つの単語で答えて」
話が長いのは勘弁なので、単語一つだけで何を話すか分かる。
「……悪口」
愚痴じゃないのか。ただ聞いてほしいだけか。
「…それだけなら、もう香水のこと教えないからな」
夜倉は昼越のことをほったらかして、歩き始めた。
「師匠! だって、ひどいんですもん。いつも一言多い担任」
昼越は夜倉の後ろをついてきて、言葉を重ねてくる。
「ああ、自分が正しいと思っているからな。聞き流す」
夜倉はため息を吐いて振り返り、まばたきをする。
「……分かりましたよ。んで、今日の香水のテーマは『レモン』でしたよね」
「ああ。今日もサイゼリヤでな。行くぞ」
手を上にあげて、駆け寄ってきた昼越は夜倉の肩を組んできた。
「行きましょう! 師匠!」
「はいはい~」
夜倉は適当に返事をして、昼越とサイゼリヤに向かった。
男子高校生はまたゲームセンターに来るのだろうか。まぁ、フィギュアも取れないし、常連客にも取れる方法教えてもらえないし。
来ないことを祈りたい。
また、この前みたいにお願いされたら夜倉が困る。
この時、夜倉が知っていたのは、男子高校生の名前はこうきだということと、同級生であること、ゲームセンターによく来ることくらいだった。



