「……あのさ…本当やめてくれる。もう……」

 身体をくねくねさせてから、朝谷は顔を上にあげる。

「いやいやなんもしてないから。それより、レーズン嫌い?」

「……っ…嫌いじゃない。むしろ好きだ」

 朝谷は鞄を持ち直して、再度顔を手に当ててため息を吐こうとしたものを吸って前を向く。

 レーズンよりも夜倉に向けて、好きだというが、夜倉は朝谷の真意に気づいていない。

「じゃあ、レーズンパンでいいよね。朝谷」

 夜倉は朝谷に確認を取る。

「いいよ。俺トレー取ってくる」

 朝谷は再度ため息を吐いてから返事をして、トレーを取りにいく。

 トレーを夜倉に渡して、レーズンパン1斤をトングで掴み、レジで朝谷は会計をする。

「ありがとうございました。よかったら、これやってますので……」

 店員はパンに入れた袋の中にチラシを入れていた。

 確認しないまま、朝谷と夜倉は店から出た。

「…これ残った百円どうするの?」

 夜倉は朝谷が左手に持っていた百円の使い道を聞く。

「うーん、どうしようね。そういえば、さっき店員さんが入れてくれたやつなんだろう」

 気になって朝谷はパンの袋を左手首にかけて、右手でパンの袋に入っていたチラシをゴソゴソとする。

「……っへぇ、さっきのお店。ヨガやイベントとかしてんだ。面白いな。ねぇ、よっちゃん」