「いや…朝谷が入るって言ったんだろう。どうするって……ってか、お金持ってんの。俺ないからね」

 夜倉は店のパンフレットがレジ横にあったので手にする。

 お金と夜倉に言われて、朝谷のパンツのポケットや胸ポケットを弄り、探していた。

 朝谷はパンツの後ろポケットを手で入れていた。

「あった」

 小銭を夜倉に見せて、歯を見せて笑っていた。

「なにが?」

 夜倉は朝谷の方を見て、聞く。

「お金。あったけど……五二〇円しかない…」

 手持ちには五二〇円のお金しかないので、朝谷はがっくりしている様子だった。

 仕方ない。

 鞄を持たずに教室を出たのだから。

「……それで買えるのってさ……」

 夜倉はパンが置いている所へ向かい、ぐるぐると値段を確認して、今食べれるものを値定めた。

「うーん……」

 顎を手で持ち、悩んでいた。

「ありそう?」

 朝谷は右手に五二〇円を手にして、夜倉の傍にきた。

「これか……」

 夜倉が指をさしたのはレーズンパン一斤だった。

「…よっちゃんさ。自分の好きな物選んだでしょ」

 眉をしかめて夜倉がえ?と一言発して、朝谷の顔を窺う。

「……ダメ?って顔しないでよ」

 朝谷はため息を吐いて、顔を手に当てていた。

 目をパチパチさせて前髪を右に寄せて、夜倉は上目遣いで朝谷の顔を見た。

「え? いやそんな顔してないし。レーズンは分けやすいかなって。朝谷も好きそうな感じしたし。あ、レーズン嫌いだった?」