「ねぇ、よっちゃん。これなんだろう。看板ないね」 

 無邪気に笑う朝谷は今の夜倉にとって輝いていた。

 今がこの状態だからだと思う。

 けれど、傍にいてくれた。

 いつもはバニラアイスの香りを嗅いでいたが、嗅ぐこともできなくどうしようもなかった。

 人が人を助けてくれるとはあの時まで想像もしていなかったんだ。

 想像以上のことが起こったので頭が処理できないでいる。

「よっちゃん。ここ入ろうよ」

看板がないお店まで少し歩き、朝谷がドアを開ける。

「いらっしゃいませ」

 入ると、レジには店員が立っていて、出迎えてくれた。

「ここはパン屋ですか?」

 右側にはパンが並んでいて、奥に行くと、カフェスペースだろうか。

 机がいくつかあった。

「はい、そうです。最近できたばかりなんですよ。是非、見ていてください」

 店員はそう言って、レジ奥のスタッフルームへ引っ込んでいた。

 朝谷と夜倉は初めて入った店をボッーと眺めていた。

 他に客はいなく、朝谷と夜倉だけだった。

 お昼前なので誰もいないのだろう。

「……どうする?」

 朝谷は夜倉に聞いてきた。