こんな暑いのに離したくないとさえ思った。
前髪掴まられて、俺おかしくなったのか。
それでも、今は離したくない気持ちが強い。
夜倉は朝谷の手を握り返した。
「……こうしているといいでしょ」
微笑んだ朝谷は夜倉と包みあっている手を目に向けて、前髪を優しく壊れたものを扱うように一定のリズムで撫でる。
「……っ……」
何も言えなかった。
このままでいいとさえ思ってしまった俺がいる。
ダメなのに。
離したくない。
離せない……
「セダム……」
シーソーから外に出た朝谷は唐突に言葉を出した。
「セダム?」
夜倉は朝谷の言葉を聞き返す。
「セダムは乾燥しても高低温でもわずかな土壌があれば生育可能な丈夫な植物。でも、水入らず・手間いらずだけど、ゴキブリが発生しやすい。だから、人が入れない場所しか使用できない。よっちゃんは何もしなくてもどこでも生きていけるように見えて、一人で人が見えないところで抱え込んでる」
朝谷は公園の入り口前で夜倉の方に振り向いて、そう思わない? と両手を後ろに組んで小さな黒目が笑うと、皺が寄って目が小さくなっていた。
夜倉はシーソーに出て、朝谷に引き寄せられるように朝谷の方に歩み寄った。
「……っ……」
何も言えなかった。
言い返せなかった。
違うって。
俺はそうじゃないって。
否定すればいいのに、そうだよと言いたくなる。
こんな気持ちを抱えた夜倉は黙っていた。
どこに行くのか朝谷は道の分からないところへ歩き始めた。