「うん………こんなに近くて右手出したら、よっちゃんの胸まで届く。よっちゃん、きちんと反論して。一人で悩まないで。あんたがこうなってると俺も落ち込むから」

 朝谷は右手を出して、ニコリとしていた。

 ほぼゼロ距離で話をする朝谷と夜倉。

 夜倉は顔を上げて、目の前にいる朝谷の目が見える。

 前髪がかかっていたので朝谷の顔は見えなかった。

 悲しそうな同情するわけでもない。

 切なく、自分のことのように悲しんでいるのが声のトーンで分かる。

「……っ…お前が落ち込むことはない。しかも、ここまでしなくてもいい。俺は別にあのままでよかった。飛び出さなくても俺はあのままで」 

 夜倉は目を逸らして、前髪を触る。

 教室であのままでよかった……のに…よくないと思っている俺もいる。

「よっちゃん。本気でそう思ってるの! 今のよっちゃん、震えてるんだよ。分かってる? あのまま教室にいたら、よっちゃんもう駄目になってたよ。あの瞬間、見たとき俺思ったよ。これ、壊れるなって。今のよっちゃんはその状態。ちゃんと緩むときはゆるん
で」

 朝谷は夜倉の両手を包みこむ。

 誰が見ているか分からないので、周囲を見渡す。

 そこには誰もいなくて、ホッとしている夜倉と見られてもいい夜倉がいた。
 
「お前……っ…」

 夜倉は拒否ろうと思って、一回手を離そうとしたが離せなかった。

 温かくて、少し汗ばんだ手が心にしみてくる。