猫のお散歩中の年配の女性が通り、少し二人を見てから、何事もなかったように通り過ぎた。

「………ああいう場合は何もしようがないし、俺は香水が好きなのは事実だ。気持ち悪いと思うのは当然だ。……っ…」

 夜倉は少し顔を上げてから、前髪を下ろして右手で押さえて弄っていた。

 もう教室にはいられなくなるだろう。

 俺がいたという事実だけ残り、香水好きな変な人になる。

 もう、いい。

 夜倉はハンドルから手を離して、下を向いたまま両手を下におろして猫背気味に意気消沈していた。

「よっちゃん。ここに来て」

 朝谷は足音を立てずに夜倉の傍に行き、夜倉の頭を撫でた。

「え?」

 夜倉は朝谷に左手首を掴まれて、抵抗する力などないのでついて行った。

 朝谷と夜倉はお互い向かい合うように三角形のシーソーに座った。

 三角形のシーソーは中学生が入ってもギリギリラインだ。

 高校生が入ると、肩幅や身長があると中々狭くて出るのも困難そう。

 入るには入れたが、出るときどうしようと思う。

 出れるとは思うが、出れなかったことを考えると高校生が何をしているのかと誰かが心の中で突っ込まれそう。

「せまっ…」

 夜倉は広い肩幅を縮めて、身長も高いので前かがみでシーソーに座る。

「いいじゃん。この密室みたいで。変な感じだよね。ここに入ると…」
 
 笑った朝谷は夜倉と同じように縮こまり、前かがみで座るので朝谷と夜倉は至近距離になった。

「ヘンな感……じ?」

 夜倉は小さい声で呟き、朝谷の言葉に反応した。