朝谷は右拳を握りしめて、唇を噛みしめる。

 夜倉が朝谷を心配しているのは分かっている。

 それを聞きたいんじゃない。

 夜倉から本当に今思っていることを聞きたいだけだ。

 夜倉は自分のことより朝谷の心配している。

 朝谷は戻るとかそういうことが今、大切じゃない。

 居場所は自分で作る。

「こうき!」

「師匠!」

 つむぎと昼越が駆け足で教室へやってきた。

「やめろ。こうき。何してんだ。どこ行ったと思いきや、ここか。他のクラスまで声聞こえるし。ギャラリー見ろよ。そろそろ先生もくる。こうき」

「そうっすよ。師匠の為なら身を引くべきです。師匠。大丈夫ですか」

 一つ下の学年の昼越までも噂が立っているのか駆けつけてくれた。

 昼越は座り込んでいた夜倉を席に座らせて、男子クラスメイトを睨みつける。

「お前、師匠をこんなにさせて……」

 昼越も怒っていた。

 夜倉のためになんで。

 俺、そこまでの価値はないのに。

「こうき!」

 眉をひそめたつむぎは朝谷に先ほどよりも大きめな声で言葉を投げかける。

「分かってる。一つ言いたいことあるからこれで終わりにする」

 朝谷は下を向いてから男子クラスメイトと再度、面と向かう。

「おい、お前。最後に言わせろ。お前が人をけなしてるのもお前の人柄は底辺なものも皆承知だ。だがな、よっちゃんをこれ以上傷つけるな」

 朝谷はまた椅子を蹴飛ばしてから、男子クラスメイトに頬を強く叩いた。

 男子クラスメイトはチッと唾を飛ばして、おい、待ってよ。おいと足を踏み出して朝谷の肩を掴む。

「……なんだよ」

朝谷は睨みつけて、男子クラスメイトに絡む。

「朝谷さん」

 昼越は朝谷の目の前に立ち、名前を呼んだ。

 昼越と朝谷は目を合わせて、言葉にしなくても分かったのか頷いた。

「……よっちゃん。行くよ。あとは頼むよ、昼越」

 朝谷は昼越の肩をポンと叩いて、教室を去った。

 クラスメイトは何が起こったのか分からずに呆然としていた。

 動画を撮影していた女子クラスメイト二人は止めていて、今行われている模様を他の女子クラスメイトとお互いの片腕を組んで、現場を見ている様子だった。

「はい、お任せください」

 昼越は力拳をして、ニンマリと微笑んだ。