朝谷は満面な笑みで夜倉に思っていることを口にした。

 前髪がひょっこと出ていて、今日ねぐせそのままで来たのだろう。

「……というよりも、なんで俺だって分かったんですか?」

 ゲームセンターでは額を出しているが、学校では前髪をおろしているし、左目は隠れている。

 誰が見てもこの豹変ぶりに気づくはずがないんだ。

「匂いです」

 意外な答えが返ってきて、夜倉は左側の前髪を少しかき分けた。

 匂い? 夜倉の体臭かそれとも香水?

「店員さんからするいい匂い。いや、焼き肉みたいな爽やかな匂いしたんです」

 水晶のような目で真っ直ぐな思いを夜倉にぶつけられた。

「え?」

 夜倉はその匂いの言葉のチョイスに唖然とした。

 思考が停止していた。

「こうき!」

 友達が大きい声で男子高校生を呼んでいた。

「ああ、今行くよ~」

 男子高校生は声の方に振り返り、手を挙げた。

「では、また!」

 礼をして、走っていた。

「師匠!」

 走った姿を見届けてから、歩こうとしたら、前から夜倉の名を呼んでいた。

「昼越」

「師匠。すいません。結局用事なくなったんで、大丈夫でした」

 息を吐いて吸ってを繰り返して、昼越は夜倉に伝えてくる。