「あーー、なんだよ、それ。男は男らしくいなきゃいけないって誰が決めた? 好きなものを好きって言えるのが羨ましいんじゃないのか。あ? お前は好きなこととかないんだろう。あったら面白くないって言わないよな。俺はすごいと思うよ。好きなものがあるって認めるのが怖いんだろ。お前らも。お前も。お前も。自分ができないことをしてるやつに偉そうにするんじゃねぇーよ」

 朝谷は机を蹴り上げて、舌打ちをした。

 机を蹴った音がすると、傍観していたクラスメイトはこれはもっとひどくなりそうだとやっと分かったのか、クラスメイト同士でこれ先生呼んだ方がいい案件じゃない。どうする?と話していた。

 どうする?とかじゃない。

 迷っているなら、先生を呼ぶ方がいいに決まっているのに、クラスメイトは呼んでこれ以上面倒になりたくないだけかもしれない。

 人が暴力を受けていることに何も思わずにはいられない。

 始まる前から思うのではなく、中盤になったらこの状況を把握する。

 人は人同士で関わる。

 同じような考えの人は人を呼びつけるし、それを我慢してクラスにいる人もいるかもしれない。

 それでも、傍観していた事実は変わりない。

 夜倉はそれを誰かが見ているかのように他人事であ「あ、言いあってる。そんなに言って、朝谷に迷惑がかかる。もういんだよ、言わなくて」とうすっらとぼやけながらも男子クラスメイトと朝谷が言っている姿を見ていた。

「はぁ?! 偉そうだと。俺は世間一般のこと言ってんの。お前らもそう思うだろう」

 男子クラスメイトはクラスにいる生徒に問いかける。

「……………」

 クラスメイトは黙っていた。

 目を逸らしたり、携帯を弄っていたり、他の人と話をしたりなどのクラスメイトがいた。

 この状況がひどくなることが分かっていても、やばいやばい、これどうなんのと自分の携帯で動画を撮っている女子クラスメイトもいた。

 それに便乗して、他の女子クラスメイトも同じように携帯で動画を撮り始めた。

 もう、この世の中は泥水だ。

 泥水が身体に濡れて、しみついてしょうがない。

「おい、返事ないのかよ。動画撮っているお前はどうなんだよ」

 男子クラスメイトを睨みつけて、返事をしないクラスメイトに声を荒げた。

 動画を撮っていた女子クラスメイトに話しかけた。

 すると、女子クラスメイトは一言放つ。

「分かんないけど、いんじゃない。これ撮ったら、もしかして拡散するかもしれないしね。みんなもそう思わない?」

 女子クラスメイトは満面な笑みを浮かべて、クラスメイトに問いかける。

 他の女子クラスメイトはいいんじゃないと返事をする一方、それ以外のクラスメイトは答えなかった。

「二人もそう思ってるということだ」

 誇らしげにドヤ顔をした男子クラスメイトは大きい声でクラス中に言う。

「お前もうやめろ。みんなが怖がってる」

 それを見たもう一人の男子クラスメイトは再度制止を試みた。

「黙ってろよ。お前も面白くないのか。あ?」