「でも…面白くないよな。この前髪でなんも見えねぇも。アハハ意外にイケメンじゃん、お前」

 男子クラスメイトは夜倉の前髪を掴んで、睨みつけてきた。

「お前……」

 何をしたいんだ、俺が香水好きだからってお前には関係ない。

 むしろ、香水が好きだからといって、お前には迷惑をかけていない。

 なのに、なぜお前は俺に言う。

 夜倉は男子クラスメイトをガンつけた。

「お前やめろよ。先生がくるだろ」

 もう一人の男子クラスメイトは男子クラスメイトを制止しようと肩を掴むが、拒否していた。

「うるせぇよ。お前もあいつが香水好きとかキモいって言ってただろ。だったら、もっと遊ぼうぜ。なぁ、面白いよな」

 男子クラスメイトはおかしくなったのか目も鋭くなっていた。

 もう一人の男子クラスメイトは男子クラスメイトにそうだなと返事をしてから、傍観していた。

 夜倉は先ほどより前髪が乱れていて、顔が露になっていた。

 それを見たクラスメイトは初めて丸出しの顔を出したので、「え?この前はダンスでもカッコよかったのに顔もイケメンとかもはや奇跡でしょ」「あいつ、こんな顔していたんだ、でも、顔が整っているだけでしょ」などの男女の声が重なり、夜倉の顔を褒めている人もいれば、夜倉の顔を貶す奴もいた。

 別にクラスメイトは夜倉を知ろうとしない。

 この前は夜倉のダンスがキレていて、カッコよく見えた。

 今、顔を出したことで余計に興味の対象になってしまった。

 前髪を握りしめているため、頭皮が痛いし、裂けそうだった。

 他のクラスメイトは夜倉の顔をまじまじと見るだけで、男子クラスメイトに何も言わなかった。

 やめなよ! 夜倉くん痛いでしょなどの言葉もなく、他のクラスメイトはうわぁ、やべぇ、でも面白そうなどとクラスメイト全員笑っていた。

 人が暴力を受けていても、何もしない。

 笑っている。

 笑って、人が傷ついている姿を見ても良心は痛まないのか。

 ほんの少しでもそういう気持ちはないのかと思う。

 ここにいる人はそういうのはない。

 興味本位と今起こっていることがどうなるのか展開が読めないので面白がっている。

 世間の声というものはそんなもんだろう。

 キモい男子はほっといて、モテる男子に注目がいく。

 モテる男子は大体、清潔感があり、世の中が求めている高い知能や気遣いができる人だ。

 世間から外れているキモい男子は男女すら嫌われる。

 男子は男らしく、女子は女らしくの風潮がまだ強く根付いている。

 香水はカテゴリーでは女子が持つアイテムだ。

 成人するにつれて、男子だろうが香水を使うようになる。

 まだ高校生であるクラスメイト達には夜倉が香水好きなのはキモいカテゴリーで逆に面白い話題になるのだろう。

 夜倉の心は冷たくて、南極よりも心が凍る。

 もうこの世界から消えたい。

 前々から思っているじゃないか。

 あの香水を嗅いでから夜倉が夜倉に復活した。

 もうこれで俺はもういなくて済むならいいじゃないか。

 男子クラスメイトが夜倉の前髪を何分間か掴んでいるので痛さが倍増して頭がクラクラした。

 しかも、前髪だけではなく、左腕を強く掴まれて痛くてたまらない。