「なにその上から目線。今日なんなん?」

 朝谷はいつもと違う夜倉に違和感しかない。

 昼越と香水を教えたから?

 それとも、昼越と話したから。

 基準が昼越いる前提で考えてしまう。

 違うのか。

 よっちゃん。

「………っまぁ、なんとなく」

 夜倉は答えてから、朝谷の方に顔を向けて小声で言う。

 答えにくいのかいつもと違う夜倉に照れているのかきな粉の粉が口内にまとわりついているかのようにボソボソと声が聞こえたような気がした。

「…なんとなくって言った?」

「うん」

「いつもなら、なんか理由ないからとか言わないと思うんだけど、なんで」

 朝谷はいつもなら答えないであろう質問に答えた夜倉に頭がはてなマークだ。

 分からない、思考回路がついていけない。

「……家族…親ひとり同じだなと思って…」

 信号が変わって、人は横断歩道を歩いていた。

 人が歩く風景とともに、人の話し声が聞こえてきた。

 ほら、お子さん、今なにしてるの?

 これ見てー、ネイルきれいでしょ!

 奥さんがさ、あーだこーだうるさいんだよ。

 これ、欲しい!買ってよ!

 俺、このままでいいのかな……

 これ出来るようになったんだ

 通る人の表情やしぐさを見ているだけで、詳しい話は分からない。

 だけど、そう聞こえてきた。

 現状報告、綺麗になった自分を見て欲しい、愚痴を聞いてほしい、欲しいものがある、心配事がある、出来た喜びなどを感じている気がする。

 みんな、自分一人ひとり体験したことを誰かと共有したい。

 そういう欲求がある。

 今の朝谷は夜倉と恋人関係になりたいし、友達ではいたくない。

 夜倉とは近い関係でありたい。

 朝谷が一番理解しているって確信したい。

 そう願っている朝谷は夜倉に言ったら、困らせるだろう。

本当は言うのか迷ったのだろう。

それでも、夜倉は朝谷に家族について口にした。

そう言った夜倉はどこか一点を見つめていた。

「え?」

朝谷は目を丸くした。

共通点があったから話してくれたのか……

夜倉から家族の話をされるとは思わなかったので、嬉しいが上回って、抱きしめたくなった。

お互いの共通点があることに喜びを噛み締めていた。

朝谷は口元を緩めた。

夜倉は何事もなかったように無表情で左隣から見る横顔は輪郭がはっきりしていて、髪に汗が出ているのか髪をかき分けていた。

朝谷は夜倉に気づかれないようにした。

 顔に出そうだったので顔を右手で隠して、朝谷は口元を緩めた。

「……っ…いや……俺のところは母親が仕事しすぎて心臓発作起こしちゃって亡くなったんだよね。元々病気がちの人だったけどさ。優しくて頼りがいのある人だったんだ。よっちゃんの所は?」