夜倉は真正面を向いたまま、平然とした表情で言っていた。
 
 夜倉は表情は変わらなかった。
 
 朝谷と話すだけで嬉しいとか。

 朝谷だからとか。
 
 そういうのはなかった。

 ただ物事をひとつひとつ片付けているようにも見える。

 話せる人がいれば、いいってこと?

 昼越とは楽しそうに話しているのはなんなんだ。

「……そう。昼越とはなんで仲いいの?」

 仲がいいかが謎だった。

 昼越と夜倉の共通点はないし、笑うほどの楽しい話をしているのが不思議だ。

「昼越とは仲間みたいなもんだよ。友達とは違う。それだけ。なんか気にしてんの」

 夜倉は昼越の仲間とはっきり言う。
 
 仲間とは辞書で調べたり検索すると、心を合わせて何かをいっしょにするという間柄をかなりの期間にわたって保っている人ということだ。

 仲間、師弟関係。

 昼越と夜倉は師弟関係でもあると言っていたのでなにか学ぶものがあるのだろう。

 何だろう。気になる。

「昼越と俺との関係気になるの?」

 夜倉は朝谷が気になっていたことを朝谷の顔を見ずに声のトーンを低くして言った。

 目を細めて、朝谷を見ると、いろんな顔になっていた。

 聞きたかった質問に素直に答えたらいいのか、やはり聞かない方がいいのか、でも、気になるというような顔を数秒で表情が変化していた。

「……っ気になる…」

 素直に答えようと、朝谷は言葉を紡がせようと声を発してから頬を膨らませていた。

 夜倉は先ほどよりも前髪が目にかかって、表情がはっきりとは見えない。

 朝谷が答えたのに夜倉はどんな顔して聞いたのだろうか。

 にこやかになのか、意地悪そうにか、疑っていたのか夜倉の顔を浮かべて、想像が膨らむ。
 
 見えないからこそ、自分の解釈で考えてしまう。

 こないだまでは朝谷と話すだけでも夜倉は動揺していたのに今日はなんだ。

 妙に話すし、朝谷に対しての質問がやけに今日は多い。

「…昼越と俺は香水仲間。これで満足?」

夜倉はそう言うと、肩にかけていた鞄を持ち直して、周囲にいるスーツ姿の会社員や学生たちが真剣に取引先とやりとりしてたり、日傘をさしてハンディファンを片手に暑そうにしていた。