夜倉は小さい声でなんだなんだと何回も下を向いて、小走りで自分に問う。

 朝谷は夜倉のことを友達だと思っていたが、恋愛的な意味で夜倉のことが好き。

 友達以上恋人未満の関係で割り切りたいのに割り切れないもどかしさがある。

 消したい……嬉しい……消したくない……この気持ちは嬉しいが勝っている。

 この嬉しい気持ちは好きと同じなのだろうか。

 初めは表向きの友達として仲良くなりたいのかと思えば、きちんと友達になりたかったという。

 次は夜倉のことが恋愛の好きだという。

 なぜそこまで朝谷は夜倉と関わりたいのか理由を教えてほしい。

 夜倉は自分の世界を楽しんでいる。

 常にそれ以外を受け付けない。

 夜倉の心の中の扉を開けないでほしい。

 廊下で立ち止まって、頭を両手でぐしゃぐしゃして座り込む。

 どうした。

 朝谷にかき回されるな。

 夜倉の世界は香水で完結している。

 あの頃の様にまたなりたくない。

 いや、ならない。

 香水ポロブルー オードトワレ。

 広大な空に煌めく大海、心が洗われる澄み切った空気といった大自然。

 誰にも邪魔しない香りとして新定番になりえる存在感の匂い。

 想像するだけで忘れられる。

 ここは空気のいい草原で晴れやかな空が広がっている。

 夜倉は立ち上がり、ここは学校だけど草原。

 だから、夜倉は心を入れ替えて、教室へと戻る。

「教室へ戻るんですか?」

 後ろを振り向くと、朝谷が夜倉に声をかけてくれた。