「名前知れたからいいだろう。なんで名前なんてこだわるんだよ。ってか、大運動会はどうしたよ。今、バスケやってるよな」

 夜倉は蛇口を持っている手を押さえたまま、言葉にする。

「分かってるよ。でも、いてもいなくても変わらないから」

 朝谷は笑いながら、夜倉にかけ続ける。

「……いや、君はバスケ部だから、いないと困るだろう」

 夜倉は朝谷こうきがバスケ部なのは知っていた。

 ゲームセンターに来る度に、バスケットボールを握りしめていたから。

 バスケ部なのかぁとうっすら思っていた。

「バスケ部って知ってたの?」

「知ってましたよ。ゲーセンにバスケボールを持ってくるってことはバスケやってるのかなぁと思うだろう」

 夜倉は蛇口を持つのをやめた。

 朝谷こうきが持っていたホースを下におろして地面は濡れていた。

「……っそう……」

「じゃあ、俺行くからな」

 夜倉はそう言ってから立ち去ろうとしたが、朝谷こうきは夜倉の右腕を捕まえてきた。

「どうしたの?」

 聞き返すと、朝谷こうきは真顔で夜倉を見てきて、こう言う。

「…名前を呼んで。呼ばないと水掛けるよ」

 夜倉の右腕をギュッと力強くまた握り返してきた。

「うわぁぁ。かけるなっておい」