昼越は涙目になり、渋い顔をして、手を曲げて痛い、痛いっと言っていた。

「そんな痛くないだろ」

「いやいや、何言ってっすか。痛いに決まってるじゃないですか」

 昼越は右手を左右に揺らして否定する。

 夜倉の時は全然痛くなかった。

「こうき!」

 朝谷こうきは友達に呼ばれたのか舞台の上から大きい声で呼んでいた。

 その声と同時に夜倉はさっきより人混みが多くなってきて、気持ち悪くなってきた。

「……っ……ごめん。昼越と朝谷こうき。少し外に出てくる」

 夜倉は気持ち悪くなり、胸ポケットにあったバニラアイスの香りの香水を嗅ぐ。

「はぁはぁ、はぁ。はー落ち着いた」

 これを嗅ぐことで落ち着く。

 体育館の裏にあるベンチで座り込む。

「はぁー、これはバスケ無理かな」

 人が多くなっても前は誰とも話さないですぐ外に出てたからなぁ。

 こんなに人と話すのはいつぶりだろう。

 思い出せない。

 バイトでは仕事上のやり取りでしかないから、学校では昼越に香水を教える以外に特に話さない。

「…このままサボるか。最近、頑張りすぎたからな」

 夜倉はベンチに座り込み、空を見上げて、くもり空だが少し晴れてきたのか眩しい光が前髪をかき分けたら、目に入ってきた。

 「これは晴れるなぁ」

 独り言を呟いて、頭の後ろに両手を広げて夜倉は目をつぶった。

 数分そうしていたら、顔に水がかかった。

「うん?」