何もしないで体育館にいるのは苦しさが増す。目的があればいいのだが、話すのは大丈夫なのか自分で心配になる。

「俺は朝谷こうき(あさやこうき)。よろしくお願いします」

 朝谷こうきは握手を求めてきた。

「俺の名前は夜倉ひとみ。男子高校生」

 恐る恐る右手を上にあげて、夜倉は手を伸ばす。

「夜倉ひとみくん。よろしくお願いします」

 瞬時に朝谷こうきは両手で夜倉の右手を強くつよく握り返してくれた。

「……っ…朝谷こうきくん。よろしく」

 夜倉は強く握り返されて、戸惑いながら返事をする。

 朝谷は目を輝かせるように夜倉の目の奥底まで覗いている気がした。

「師匠。何してんですか?」

「昼越」

「…話してるんだ」

 夜倉は昼越の方に振り向き、冷静に答えた。

「この人、誰ですか?」

 朝谷こうきは目を細めて、眉をひそめていた。

「一つ下の後輩の昼越。こちらは朝谷こうきくん」

 お互いの紹介をした。

 朝谷こうきとはさっき名前知ったばかりなのに、今昼越に紹介しているのが変な感じ。

「昼越くんね。よろしくね」

 朝谷こうきは目尻を皺に寄せて、ずっと笑顔を絶やさなかった。

 お互い、握手をした。

「痛い。いたい。痛い。なにこの子、めっちゃ力強い。師匠!」