「俺、花が好きでよく分からない花とかあったら調べてるんですよ。この葉っぱは一見、強そうに見えるんですけど、違うと思うんです」

 なんで? と夜倉は男子高校生こうきの方に振り返って聞き返していた。

「…俺には……そう見えるんです」

男子高校生こうきは前髪が短いので、はっきり顔が見える。

 一瞬切なそうにして、口を開ける。

「そうか……」

「…この葉っぱはいろんな用途で使えるし、料理の時とかにも使うんです」

「葉っぱでも葉っぱじゃない使い方あるんだ」

 夜倉は男子高校生こうきと向き合い、目を丸くして頷いた。

「この葉っぱの名前はハラン。花言葉は強い心。強い意志。強い意志はあるけど、弱い所は見せない。それって、人と同じじゃありませんか?」

 急に男子高校生こうきは真顔の表情から微笑んでいた。

 その表情はさっきほど馬鹿げるように騒いでいた男子高校生こうきとは違う。

 男子高校生こうきの中の心の底のほんの一部を垣間見えた。

 その姿だけ切り取られて、本来の男子高校生こうきはいないんじゃなかと錯覚してしまう。

「……っ…そうだね。じゃあ、俺は行くから。早く帰りなさいよ」

 夜倉はそう言って、立ち去った。

 そのあとは帰った後も男子高校生こうきの顔が頭から離れられなかった。

 ゲームセンターで遊んでいる男子高校生といつもと違うのは、人間は二面性を持ちあせている。

 一つの顔だけではないのが人間であるが、状況によっても変わる。

 それは人間みんなそうなのに、あの表情だって、よくあることだ。

 よくあることなのに……

 洗濯機を回していた音が響いていて、その音がかき混ざるように頭の芯が刺さって、釘刺しになった気分だ。

 あーー、頭を両手で押さえて、洗濯が終わる音がしたのに、椅子に座ったまま頭を両手で持ったまま眠っていた。

 何も聞こえなくて、閉じたままの洗濯機が静まり返ったように部屋の隅っこにこっそりいるみたいだった。