髪もぐちゃぐちゃで顔も崩れているが、職場に無事着くことだけを願って、足を止めない。

「……っ…着いた…」

 息切れをして、両手を両膝に置いて、ゼェハゼェハと息を整えていた。

「夜倉くん。どうしたの?」

 店長が目を丸くして、夜倉の様子に驚いていた。

「いや……遅れそうだったので走ったんです。間に合ってよかったです」

「遅れたら連絡くれればよかったのに。あ、もう少しで一七時だからタイムカードやってきてね」

 夜倉は返事をして、急いで更衣室に向かった。

 いつも時間に余裕があって、五分ほどスマホを見てから勤務を開始するルーティンがあるが、そのルーティンをなくして勤務に臨む。

 逆にルーティンをなくして、余裕をもたせないで勤務を開始するのはいささか居心地が悪い。

 スタッフ部屋から出て、すぐゲーム機の中身を確認して、足りないものがないか確認する。

 カートの中にあるぬいぐるみやお菓子などを入れていく。

 お客さんはまばらで、特に多いのは学校帰りの学生たちがたくさんいる。

 部活帰りやカップルがデートで寄って、遊んでいる。

 部活やデートというものには俺はあまり興味がない。

 クラスの男子は女子の話をする。

 この子、めっちゃ可愛い。

 あの子は腹黒いし、顔可愛い割にね。

 今の子、タイプだわ

 などと恋愛対象になる人はどんな人かを男子たちで話している。

 その会話すらなにが楽しいのか分からない。