お弁当の蓋を開ける。りょうこさんのお弁当はどんな感じのものだろう。ちょっと、いや、結構気になる。
「あ……れ?」
「え……?」
私はりょうこさんのお弁当の中身を見るなり、フリーズしてしまった。
アジフライ、ピーマンの味噌和え、じゃがいもとベーコンのカレー炒め……ついでに、ゆかりご飯。
なんと、今日の私とりょうこさんのお弁当の中身は全く同じだった。
つまりは、そういうことだ。
実は、りょうこさんは、おつまみや夜ご飯のメインになるおかずのほかにも、お弁当作りの動画なんかも配信している。
今日の私のお弁当は、その動画のうちの一つのお弁当の中身を、まるまるパクって来たものだったのだ。
「あ、小森さん、もしかして……動画、観てます……?」
すごーく、気まずそうに話しかけてくる美女。
「は、はい……」
「そうなんですね。すみませんが、会社の人たちには内緒にしてもらってもいいですか? 一応、副業とかダメってことになっているし」
「は、はいっ。それはもちろんっ」
つい、それだけ答えて、固まってしまう。
そこから、私たちの間にはしばらく、気まずい沈黙が流れた。
だけど、信じられないことだけど、沈黙を破ったのは私の方だった。
「あの、りょうこさん」
「はい、なんでしょう?」
「あの、私……ずっと、会社以外では引きこもりで、その……りょうこさんの動画観るまでは本当にただゴロゴロしてるだけのデブっていうか……いや、今でもデブはデブなんですけど」
何を言ってるのか自分でもよくわからないけど、気づけばそんなことを話し始めていた。
「だからその……こうしてお話しできて本当に嬉しかったというかその……ずっとお礼を言いたくて、その……ありがとうございました!!!」
勢いよくガバッと頭を下げる。
「ちょ、ちょっと、小森さん……?」
ああ、もう私は、何を言っているんだろう。同僚になったとはいえ、初対面の人相手に。どうしよう。りょうこさん、絶対困ってるよ。
「ふふっ……小森さん、頭上げて、ね? ちょっと、もう……面白すぎでしょ……あはははははっ」
挙動不審な態度の私を見て、りょうこさんは笑い出した。
「だって、引きこもりデブって……あはははっ……そもそも会社員だし、引きこもってないしっ……ひひひっ」
何がツボに入ったのかわからないけど、りょうこさんは私の発言に対して失礼なくらいに笑い転げていた。
なんだろう、これ。普通なら多分、ムッとするところなんだろうけど。
いつも観ていた動画の美人が、そのまま抜け出してきた。そんな光景を見ているみたいで。
笑われているだけなのに、馬鹿みたいに心臓が高鳴って、馬鹿みたいに可笑しくなってしまうのだった。
だから、いつのまにか、緊張とか、気まずさとか、そういう余計なものは解けてしまっていた。
「……りょうこさん、りょうこさん」
「……はははっ」
顔を上げて、まだ笑いの渦の中にいるりょうこさんを呼び戻す。
「お弁当、食べちゃいましょう。お昼、終わっちゃいますから」
「そうね。じゃ、食べましょうか。いただきます」
「いただきます」
お箸で一口、おかずを口に入れる。
「どれどれ、小森さんのおかずの出来栄えはどうかな」
「えっ」
次の瞬間、信じられないことに、りょうこさんが私のお弁当のピーマンをひと口持って行ってしまう。
なんでよ? 同じおかずなのに? ていうか、なに? 学生のノリなの? なんなの? これが陽キャってやつなんですか!?
そんなことを考えている間もなく、りょうこさんは、いつもの動画の時みたいな、どこまでも響き渡るようなハリのある声で言った。
「は!? なにこれ?? くそまっず!!」
「あ……れ?」
「え……?」
私はりょうこさんのお弁当の中身を見るなり、フリーズしてしまった。
アジフライ、ピーマンの味噌和え、じゃがいもとベーコンのカレー炒め……ついでに、ゆかりご飯。
なんと、今日の私とりょうこさんのお弁当の中身は全く同じだった。
つまりは、そういうことだ。
実は、りょうこさんは、おつまみや夜ご飯のメインになるおかずのほかにも、お弁当作りの動画なんかも配信している。
今日の私のお弁当は、その動画のうちの一つのお弁当の中身を、まるまるパクって来たものだったのだ。
「あ、小森さん、もしかして……動画、観てます……?」
すごーく、気まずそうに話しかけてくる美女。
「は、はい……」
「そうなんですね。すみませんが、会社の人たちには内緒にしてもらってもいいですか? 一応、副業とかダメってことになっているし」
「は、はいっ。それはもちろんっ」
つい、それだけ答えて、固まってしまう。
そこから、私たちの間にはしばらく、気まずい沈黙が流れた。
だけど、信じられないことだけど、沈黙を破ったのは私の方だった。
「あの、りょうこさん」
「はい、なんでしょう?」
「あの、私……ずっと、会社以外では引きこもりで、その……りょうこさんの動画観るまでは本当にただゴロゴロしてるだけのデブっていうか……いや、今でもデブはデブなんですけど」
何を言ってるのか自分でもよくわからないけど、気づけばそんなことを話し始めていた。
「だからその……こうしてお話しできて本当に嬉しかったというかその……ずっとお礼を言いたくて、その……ありがとうございました!!!」
勢いよくガバッと頭を下げる。
「ちょ、ちょっと、小森さん……?」
ああ、もう私は、何を言っているんだろう。同僚になったとはいえ、初対面の人相手に。どうしよう。りょうこさん、絶対困ってるよ。
「ふふっ……小森さん、頭上げて、ね? ちょっと、もう……面白すぎでしょ……あはははははっ」
挙動不審な態度の私を見て、りょうこさんは笑い出した。
「だって、引きこもりデブって……あはははっ……そもそも会社員だし、引きこもってないしっ……ひひひっ」
何がツボに入ったのかわからないけど、りょうこさんは私の発言に対して失礼なくらいに笑い転げていた。
なんだろう、これ。普通なら多分、ムッとするところなんだろうけど。
いつも観ていた動画の美人が、そのまま抜け出してきた。そんな光景を見ているみたいで。
笑われているだけなのに、馬鹿みたいに心臓が高鳴って、馬鹿みたいに可笑しくなってしまうのだった。
だから、いつのまにか、緊張とか、気まずさとか、そういう余計なものは解けてしまっていた。
「……りょうこさん、りょうこさん」
「……はははっ」
顔を上げて、まだ笑いの渦の中にいるりょうこさんを呼び戻す。
「お弁当、食べちゃいましょう。お昼、終わっちゃいますから」
「そうね。じゃ、食べましょうか。いただきます」
「いただきます」
お箸で一口、おかずを口に入れる。
「どれどれ、小森さんのおかずの出来栄えはどうかな」
「えっ」
次の瞬間、信じられないことに、りょうこさんが私のお弁当のピーマンをひと口持って行ってしまう。
なんでよ? 同じおかずなのに? ていうか、なに? 学生のノリなの? なんなの? これが陽キャってやつなんですか!?
そんなことを考えている間もなく、りょうこさんは、いつもの動画の時みたいな、どこまでも響き渡るようなハリのある声で言った。
「は!? なにこれ?? くそまっず!!」