「上城さん、ホントに近藤さんと仲いいんだな」
 
 めっちゃ詰められて近い近い。顔、怖!
 この一ヶ月、心の距離は近づいた気がするのに、どうしても先輩感が拭えないらしく、”お前”もしくは”上城くん”から、上城”さん”付けに呼び名が変わった。だけど言葉遣いははタメ口だから思考回路がよく解らない。まあ、理解できないことは山ほどある。

「前にも言ったけど、去年同じクラスだったし」

 ロッカーと太田に挟まれながら説明を繰り返す。聞こえてるし頭良いから覚えてるだろうに、太田は舌打ちして顔面鬼のままだ。そうだ、こういう時は――
 
「ちょ、太田。六数えろ!」

 俺の呼びかけに太田の目が正気に戻って、細く息を吐き出した。
 脳内で俺が六秒カウントダウンした後、太田もクールダウンした。

「あの本、すごく役に立ってる。ありがとう」
「そ、そうか! うん。よかったね」
 
 相手にとって脈絡無く苛ついている様に見受けたから、太田に例のアンガーマネージメントの本を貸してやった。
 太田曰く相手が理解できず自分も解って貰えず、訳もなく腹が立つ事が今まで多々あったが、解消されて楽になったらしい。
 勉強好きで頭も良いから色々書いてある本はめちゃめちゃ読み込んだんだろう。
 部の仲間に対しても使えてるようだし。近藤もさっき言ってたな。『話に時間がかかるけど』対話出来てるって。返事が遅いのはきっと腹が立ちかけたら太田は六秒後に返事しているからだろう。

「本の内容は頭に入ってるけど、だめだ」
「なにがだめ?」
「近藤と上城さんが一緒にいたら、イライラすんの我慢できない」

 近藤呼び捨てー。指摘しようと思ったけど、黒髪振り乱して大真面目に苦悩してるみだいだから、右肩を撫でてなだめた。太田の体温に掌がビリビリする。

「上城さん、なんで近藤に頭くっつけてたんだ?」
「あれ、は、頭突き……ってさっきの見てたのか?!」
「ちょっとだけ」
 
 ドアの隙間から眼光らせたのかよ! 

「『綺麗系』って言われてた」
「あ、れは冗談に決まってるだろ。元同級生ジョークさ。ハハ!」

 太田が来るの遅くて良かったーー! 俺の『俺って可愛い?』聞かれてたら終わってたー。

「元同級生は仲いいかも知れないけど……今は誰より僕が一番上城さんと仲良しだし! 上城さんの事……僕が一番可愛いって、キレイって思ってるから!!」

 潤んだ黒目で睨まれて、ロッカードンされて、息が止まる。

「覚えてて」
「……はい」

 勢いに負けて、俺は間抜けな返事をした。

太田は言うだけ言うとすっきりした顔で、帰りの用意をし出した。
 俺は頭に血が上ってふらふらしながら太田の姿をただ見つめて待っている。

 熱烈な告白。嫉妬からの、可愛い綺麗頂きました。あ、でも『キレイ』は今日初めて言われたな。近藤の冗談に触発されたんだね。
 太田よ、俺の事めっちゃ好きじゃん。

 毎日そう感じてる。だけど、”好きって言えよ”とはもう思わない。
 仲良くなって四六時中一緒に居て気付いた。

 太田には 好き という概念がない。
 
 
-つづく-