「なあ、俺って可愛い?」
「どうした? 身体だけじゃ無くて頭もおかしくなったのか?」
辛辣かつ真っ当な返事が元クラスメイトで現チームメイトから返ってきた。
ちょっとムカつくけど、まともさを放ってくれる友に感謝だ。
なんせ今四六時中一緒にいる奴は正気さを失う。
「上城、具合どうだ?」
「はい! 体調は良いです。有り難うございます」
グラウンドを去る前に部室に顔を出してくれた監督。多分俺を気遣ってだろう。
監督は高校時代怪我で部活を辞めたと聞いた。俺はマネージャーになるでも無くまともに練習にも参加していないが、辞めてないし部活にも来ている。そんな俺を都度気にかけてくれている。
煌めく笑顔を残し、監督は去って行った。
俺が下らない質問をした時に、間髪入れず毒づいてきた近藤がきゅうにしおらしくなり、監督の後ろ姿を黙って見送っている。
そう。何も間違っちゃいない。他の学校の奴らに言っても信用して貰えないが、ウチの部で一番可愛いのは俺らの一回り上だろう監督だ。
「ああいう人を可愛いっていうんだよ」
無意識に独り言を零していた。あいつにもいってやりたい。
解ってんのか? 太田。
――太田と約束通り仲良くする様になってから、一ヶ月。
あの時、何をトチ狂ったのか”好きって言えよ”と暴走した自分を全力で戒めたい。
いや、仲良くなった事自体は、後悔していないんだ。ただ……
「にしても、今の様子が意外だわ」
「何が」
「上城と太田がズッ友になってんの」
一昔前の揶揄を含んだ表現使われて、弄られてるのかと思って近藤をにらみつけたら、至極真顔だった。
「お前を結構尊敬するわ。
太田が入って来た時何度か会話試みたけどキャッチボールにならなかったもん」
「近藤が言ってる事解るけど、徐々に慣れてくるし、理解も出来るよ。性根は良い子だよ」
「やっぱお前すげー。
アイツは喜んでんじゃね? 部に入った時から上城の事よくガン見してたから」
「え? そそそうなの?」
びっくりしたー。近藤は太田の挙動に気付いてたんだ。
「上城と仲良くなりたかったのかも」
「そそそうかな?」
意外と鋭い指摘に心臓がバクバクする。他人に言われたら、俺の思い上がりや勘違いじゃ無いんだと確信する。
だろ!? そうだよな! っ近藤と握手して完全同意を求めたくなる気持ちをぐっと堪えて、遠い目をして微笑みだけを返した。