「上城くんと仲良くなるなんて、無理だ」
「どうして? 俺そんなこと言われたの初めてなんだけど」

 今まで自分で言うのはなんだけど、対人受けは良い方だ。『仲良くして』って言われた事も多々ある。
 なのに太田に拒まれるなんて、心外だ。

「だって僕……上城くんを初めて見た時からおかしいんだ。
ここで見かけた時から息苦しくて、気になって仕方ないし。ずっと見てしまうし、見たら胸も痛くなってきて。挙げ句同じ部活に居るし。
僕、人のせいでこんな事になるの生まれて初めてで……出来れば近寄りたくないと思ってた」
 
 うっそだ……もしかして今、告白 されてる?

 太田の予想外な発言にびっくりしすぎて、口あいたままなのにとじる筋力がない。喉がカラッカラだ。
 俺も経験多い訳じゃ無いけど、生まれてきて去年まで告白された事もあるし、ときめいた事も有る。
 好きになった状態を丁寧に言語化したのが太田がさっき俺に言った、まんまじゃないのか?!
 え? 太田そう、なの?
 
「一緒に居たら、具合悪くなるから! 仲良くは出来ない! 無理!」

『好きです』待ちで、何て返事したら良いのか高速で考えて居た俺の予想は空振った。
 照れてんのかと、恐る恐る見てみた太田の耳は真っ白に戻ってる。きっと本心から本気の発言だ。
意味が全くわからない。
 告白体験してる俺だって一昨年までヘラヘラした中学生で、去年は対人関係ワープしてるし、恋愛経験全く豊富じゃ無い!
 男子校だから太田が同性とか、そんな事驚く暇がない。今はどうでもいい。
 ”好き”の答えみたいな事言われて、仲良くなるの断られるってあんの? 別に俺が、本気で太田と仲良くしたいて思った訳じゃ無くて、なんなら喜ぶだろうぼっち助けてやろう位な気持ちだったのに、拒否られて何でかちょっと傷ついた。
 

「そ、そうなんだ。ちょっとびっくり。太田さ、じゃあちょっと考えてみて。俺と仲良くするのが嫌なら今後近づかない。一生太田と喋らない。それでいいの?」
「一生……しゃべれない……」

 想像してみてるのかずっと黙ってた太田が「ツライ……」とボソリと呟いた。

「今日は俺、初めて太田とこうやって面と向かって過ごしたけど。どうだった?」
「……すごい身体疲れたけど、凄く嬉しかった……」

 『疲れた』って、解るよ。特に太田感情表現バグってるもんな。最初嫌われてるって思った位だし。それが今日、『凄く嬉しかった』って? また耳真っ赤。俺の事、絶対好きじゃん!

「太田に仲良くなんの『無理』って言われたから、俺とはもうこんな事ないけど、大丈夫そ?」

「うぅ……」
「ちょ、ちょ、これ」
 
 太田がまた想像タイムの後、泣き出したからびっくりした。慌ててハンカチ貸したけど。涙は袖で拭いて俺のハンカチ握りしめてる。
めっちゃ好きじゃん! 俺の事!

「じゃあ、仲良くしようよ」

 少し情緒落ち着いた太田に、俺は握手を求めた。
 そしたら潤んだ目でめっちゃくちゃ睨んできた。どういうこと? 解らん!
 気付くと太田の視線はハンカチに注がれていて、ボール位布を握りしめて綺麗な爪が白んでる。
 俺が返せって手出したと思ってる?

「あ、ハンカチ? 取り上げないって。もしそんなんでよかったらあげるよ。返さなくて良い」
「え。でも……そんな窃盗みたいなこと……」

 友達から物貰うのを犯罪用語使ってる。慣れてきたのか驚かなくなった俺も俺だな。
それより、やっと顔が緩んで嬉しそうに下手くそにうっすら笑ってる太田を見て、握手を勘違いしてる読みが当たった事に、嬉しさを感じつつある。

嬉しそうだな。だって、俺の事すげー好きだもんな。ハンカチくらいやるよ。
 正直に自分の気持ちを言っても良いぞ。返事は何にも決めてないけど、此処まで来たら意地になってきた。
 さあ、好きって言えよ。

「これからよろしくな」
「……解った。上城くんがそこまで言うなら、よろしく」

「はあ?!」

 思ってた返事じゃなーーーい!
いつの間にか俺が頼み込んでることになってるじゃん! なんで?!

 下校のチャイムが夕暮れに鳴り響いた。
 机上の問題はまだ一問も解けていない。




ーつづくー