ほぼ接触無かったとは言え、こいつ、そんなに俺の事興味ないのか。結構キャッチーだよな? 一年二回目って。我ながら思うよ。
 さっき三白眼だと思ったけど、驚きすぎて瞳孔開いてたのか。今目玉真っ黒で死んだ魚の目だ。
 
「いや、俺からは直接言った事ないけどさあ、周知の事実と思ってたよ」
「上城くん、クラスでちょっと浮いてると思ってたけど……」

 聞き取れない位のボソボソ声でなんか失礼なこと喋りだした。あら、急に『お前』連呼から『くん』呼びになった。

「教室移動も一人でスタスタ何処でもいくし、家みたいに校内把握してるなって思ってけど……
部活でも真剣じゃなさそうなのに、全然怒られないし……
先輩達とも仲よさそうにタメ口でふざけてたりとか……可愛いからって先輩に贔屓されてんのかとおもってた……」

 あーーつっこみまにあわない! ボソボソ止めどなく喋るじゃん! 
 ていうか一番驚いてる。俺の事、興味ないどころか、めっちゃ見てたんだね!?
 えっ、今『可愛い』って言った? 俺の事? 幻聴?

「クラスの皆はやっぱ年上だから引いてる所は有ると思うよ。でも俺的には普通に仲良くやってるつもりだけど。部内の秩序乱して見えてたら悪かったけど、二年は元同級生だからね」

「そうだったのか……」
「俺の事マジで、今日まで先輩とかさ、クラスの奴らから一回も聞いた事無いの?」

 返事の代わりに項垂れた首をゆっくりと縦に振っている。

「俺がこの理由で他人と距離有るのは否めないとは思うけどさ。太田は普通に一年で部活もやってて誰ともそんな話しないって……それってシンプルに馴染めてないんじゃ、」
「……っ」

「べ、別に仲いい奴なんていなくても困ってないし!」

 馴染めてないのは否定しないんだ。むしろ図星だったのかな、暫く奥歯噛んで黙ってたもんな。ちょっと罪悪感。

「僕は、ずっと、おま……上城くんの事、クラスで何か浮いてるし部活も贔屓に甘んじてちゃんとしない上に頭が悪いのかと思ったら、可哀想な奴だなって」
 
 ーー前言撤回。罪悪感吹っ飛んだ。
 勘違いと思い込み爆走して、めちゃくちゃ言いやがって。
 バカで可哀想と思ってる奴なら、けんか腰で舌打ちすんなよ。対人感情表現下手くそすぎるだろ。でも、だから部活もクラスも話せる奴居ないのか……

「言いにくかったら『お前』でもいいし、くんも無理矢理付けなくて良いよ。俺年上だけど同級生になったんだし。ただ、太田さ、仲いい奴居なくても困らないかも知れないけど、居ても良いとは思うよ」

 太田は俺の呼びかけに返事はしないけど顔を上げてくれた。視線は全く合わないけど。机の角一点にらみつけてる。

「俺も、突然病気になってから全然学校これてなくて、在宅授業や通信転校編入や色々考えたさ。
でも高一って一回限りだからさ、後の人生いくらでもあるんだし、ちゃんとここでやり直そうって」

 今日ほぼ初めて喋る太田に詳しく病状や理由を説明するのはやめた。いつか聞かれたら言うけど。
 教室の中は二人で空気は大荒れなのに、窓の外は穏やかだ。夕方近いのに日も落ちない。今は暖かくて気持ちがいい。
 俺はこの学校で薄暗さや寒さを知らない。辛いかもしれない、やっぱりやり直しを辞めりゃ良かったって思うかもしれない。けど、後悔しても過ごしてみたい。ここで。

「まあ、学校また来れるようになって、浮かれて部活で皆が野球してるの観るだけで楽しいし、教室で授業中座ってるだけで勉強した気になってたし、で今日まで何もしてなかった! それで太田に迷惑かけたのは悪かったと思うよ」
「……わるいとか、ない! けど」
「じゃあ、有り難う」

 謝らなくていいなら礼を言わないと、と思って伝えた。
 太田は久しぶりに俺の顔を見てくれたけど、すぐ目をそらした。俺の正面に太田の真っ赤に耳が現れた。

「せっかく同じ学年・クラス・部活になったんだからさ、三年間、仲良くしようよ。よろしく頼むよ」
「三年間、なかよく……僕と……」

 同級生とはいえ一個上として心の広さを発動し、俺なりの最高着地点を発したつもりだった。けど、目の前の太田は固まってる。え、何が不服? 俺と仲良くすんの嫌なの?