「どうやったら取れるんだよ」
「何が?」 
「一学期の中間で赤点を!」

 同じクラスで同じ部だけど殆ど喋った事もない関係性の奴に、倒置法で罵られた。
 嫌みの締めには舌打ち。
 舌打ちって理屈無く嫌だな。感じ悪い。
 反論してやろうかと思わないでも無いが、今後の付き合いもあるから穏便にやり過ごそうと、一息吐く。

 六秒経って笑顔と温和な口調で返事をした。去年暇すぎて読んだアンガーマネージメントとやらの本がもう役に立った。
 親父の部屋にあったんだけど、高校でも使えるじゃん。流石団体生活! 人間関係難しいねー!
 でもこんな面倒くさい事も、楽しいと思える今。
 
 あ、無意識に笑ってたら睨まれた。頭にエア冷や水をかけて真面目面に戻し、問題用紙を凝視する。
 にしても目つき悪いな、コイツ。まあ視界の端に入って来てる顔を思い出すと、いつもな気がする。鋭い目つきで一文字に結んだ口。真っ直ぐ直毛パシパシしてそうな髪が、とげとげしさを盛っている。
 今まで気にもしてなかったけど、初めてくらい認識した俺の監視役を思い巡らせた。
 あ、問題解かないとまた怒られるな。
 顔は俯いてるけど、手が止まってんのバレてる。苛ついてんのか目の前でカチカチ鳴らし始めてシャー芯めっちゃ出てる。オー怖。

「お前がさあ、ちゃんとしないと部活出来ないんだからさ。全員に迷惑かかんだよ」
「仰る通りです」

 ぐうの音も出ない。うちの学校厳しいからな。

「解らない所があったら、聞けよ。僕に」
「はい。ありがとうございます」

 チラッと顔上げたら目が合った。何でか逸らされた。

「礼なんていいから。ったく」

 何だ? ちょっと口元緩んでホヘってんじゃん? よく解らないな。こいつ。
 でもめっちゃ頭良い事は知ってる。だから今向かいに座って俺の監視役させられてるんだろう。

 クラスでも部活でも話題にはなってた。まあウチの学校は基本頭悪い奴いないし、そんな事も一週間もすると、ふわっとしちゃってた。
 俺のせいで部活が出来なくなるのは、それは本当に悪いと思うし、こいつはそれが一番の心配事なんだろう。

 投げる球にも性格出てる。剛球一途。いつ見てもひたすら投げてたな。
 部員人数少ないし、一年だから球拾いとか雑用ばっかだけど、それでも暇見つけたら投げてたんじゃない? って今振り返るとそんな姿が思い出される。
 監督とも先輩とも違うタイプの投手。それは俺にも解る。今までの小中のチームメイトにも居なかったタイプだ。