「何を?」

 俺が口に出してしまっていた独り言に、太田が反応してきた。
 不思議そうな顔をして、俺の顔を覗き込んで。
 相変わらず距離が近い。心拍数が上がって俺は息を吐く為に、視線を外した。
 路地の街灯が映し出した俺達の影は一つになっている。

 一瞬太田に視線を戻すと、愛おしそうに見つめて来てる。この俺を。
 初接触の頃の直感は勘違いじゃ無かった。この数ヶ月で断言できる。
 
 太田は俺の事が、好きだ。
 間違いない。だけど、解ってない。人生の中で恋愛感情が無かったから、概念が無いんだと悟った。

 そう解ってからは笑えたし、この仲良し友人状態でいいか、と思った時期もあったし、もっと俺を好きにさせて、自分の気持ちに気付かせて告白させてやる! と躍起になった時期もあった。

 そんなこんなも、今日、どうでも良くなった。

「太田、」

 俺は太田の華奢だけれどしっかりした背中に腕を回し、初めて抱きついた。

「え、え、ぐ……」
「具合は悪くない」

 とんでもなく驚いて心配する言葉は即遮った。
 太田の胸に顔を埋めていると、お前の方が具合悪いだろ?って言いたくなる鼓動の早さが額に伝わってきて、俺も正気を何とか保ててる。緊張して吐きそうだけど、太田も同じだ。

「俺、太田のことが、好きだ」

 好きになったのが後も先も、関係無い。俺も誰より太田のことが、好きになってしまったんだ。
 だから、俺から言ってやる。

「好き。好きだから」
「……」

 返事は無いけど、太田が手に持ってただろうジュースの缶が盛大な音を立てて、地面を転がった音が響いた。
 自由になった太田の掌が俺の背中に触れた。とてつもなく震えている。
 あんなに力強くて、鍛錬して迷いの無い剛球を投げる手が、一キロの握力も感じない程弱々しく、俺の背中を漂っている。
 言葉は無くても何よりの返事だ。

 俺は、太田の胸に顔を擦り付けた後、勇気を出し見上げた。
 顔を見る余裕が俺にもない。背伸びをして頬にキスをした。
 太田の頬は氷のように冷たくて、少し驚いたけど、俺も初めて人にしたから、ちゅ って変な音が鳴って、恥ずかしすぎてまた太田の胸に顔をワンバンして潜った。