太田はまだ飲んでなかった缶をくれた。味を確かめる為に一口飲んだけど、別方向に神経がもってかれてるからか、味覚が機能してくれない。
やっぱり味がわからない。スースーするのは感じる。甘ったるいのよりこっちがいい。少し落ち着いた。
「悪い。俺、バッティングセンター代払って無かった。いくらだった?」
普段回し飲みなんて何てこと無いのに、ついさっきまで俺の口が付いてた缶が太田の薄い唇に当たるのがなんだか見てられなくて、話を変えた。実際気になってたし。俺すごい空振ったからめちゃくちゃ課金してんじゃないか? 泣き喚いてたから気にする余裕も無かった。
「心配しなくて良い」
「そんな訳には」
「僕も払って無いから、本当に大丈夫。
初めて連れてかれた以来、僕があそこに通って打つ代金、全部叔父さんに請求が行くようにしてくれてるから」
「マジで?! 叔父さんどういう人?!」
叔父さんやっぱり変わり者だね! と本音が零れかけて慌てて缶の底に沈めた。
「でも太田の叔父さんであって、俺の叔父さんでは無いし。友達の分まで悪いよ」
「確かに友達と行ったこと無かった。上城さんが初めてだ」
「そ、そうなんだ」
「叔父さんに言っとくから、大丈夫」
「でも……」
「ブホッ!!!」
「どうした?! 太田!」
喋ってる最中、急に咽せて道にジュースを噴水してる。
「大丈夫か?」
「こ、こ、これ、上城さんが飲んでたの、ボクノンデル」
「は? そりゃそうだろ、お前が交換しようって言ったじゃん」
「上城さんの口付いてたやつ」
「太田潔癖なの?」
「違う……上城さん飲んだ後の……って、気付いたら……息が……胸が苦しい」
マジで今気付いたのかよ?! 間接キス! 何も考えて無くて純粋に交換したのかよ! 半分そうかなと思ってたけど! ドキドキして損したわ!
半ば呆れながら、ぜえぜえゲホゴホ言ってる太田の背中を摩った。
顔を真っ赤にして袖で口元を何度も拭っている。
恥ずかしいんだろうけど、そんなにされると間接で口を付けたのが嫌だったのかなと、微妙な気持ちになった。
太田の行動、ずっと二人で毎日居るからまだ意訳出来るけど、そんなに親しくなきゃ誤解される事多々だろうな、と赤くなった唇を見てぼんやり思う。
「また、一緒に……来てくれるか?」
「勿論! また連れてきてくれよ」
一緒に来ると伝えたら、予想通り満面の笑みに変わった。喜ばせたい社交辞令じゃない。本心だ。「楽しかったよ」 と感想を言うと、また喜んでくれた。本当だ。
久々にバットを振った。ボールだけを見据えた。当たった。打てた。
去年まで日常だった俺の行動。呼吸と同じ位当たり前にしていたのに。すっかり忘れていた。
元は太田の尊敬する野球きっかけルーツ探し。もしも最初からバッティングしに行こうと誘われたら、来なかったかもしれない。
”一緒に試合に出よう”
此処へ来たお陰で夢のような言葉を太田はくれた。誰に言われても信じられない内容だけど、俺は心から今信じている。
太田の行動言動は何から何まで読めない。
なんせ憧れのピッチャーは人で無く機械だった。しかも真剣に十年位憧れ続けてる。
結果をしって驚きはしたけれど、嘘だとは思わなかった。太田の非現実は、まさに現実だからだ。
太田は全て本気だし。嘘が無い。
だから――
「俺が、言わなきゃ」