「大丈夫か?」
「おう……」

 少し前を歩いて先導してくれている太田が心配そうに度々振り返り尋ねてくる。俺は恥ずかしくて視線を合わせられないけど、なんとか返事を声にした。
 さっきは自分でもびっくりするほど涙が湧き出て制御出来なかった。おじいちゃん店員と太田に一頻り泣き止むまで見守られた。
 
 年老いた手に「またおいで。バイバイ」と見送られ、今知らない駅までの帰り道。
 右手にローカル缶ジュース、左手は……太田の手が繋がれている。
来た道の明るい国道筋ではなく、一本外れた暗めの街灯だけがたよりの道を歩いている。
 俺に気を利かせてくれているのか。だけどそのお陰で腫れた目も、引かれている手も気にしないでいられる。
 バッティングセンターを出て、道を違える途端「こっち」と言う声と共に、手をぎゅっと握られた。驚きはしたけど、何でか俺は言葉にも態度にも出さず、振り払わず握り返した。
 剛速球を放つ太田の長い指を絡められ、心臓がバクバク言いはじめて、じんわり汗書いてる気がする。指の先まで。
 
「熱い……」
「『暑い』? ちょっと休むか? これ貰ったし」
 
 大きな施設の裏なのかフェンスが延々と続いて座る所もなにもない。街灯の真下は害虫が集ってるからか、太田は手で振り払いながら数歩歩いて立ち止まった。
 すっかり日は落ちていて、街灯を背にした薄暗さにホッとして、俺も歩みを止めた。泣いた後の顔もよく見えないだろう。
 確かに喉が渇いてるし。
 
 リュックが汚れるのも気にせず、二人してフェンスに背もたれ缶ジュースを飲んだ。繋いでいた指が痺れてタブがなかなか開けられなかったけど。
 
「甘っ」
「何味?」
「飲んでも全く解らん。文字暗くて見えないし。太田のは何味?」
「はい」
「?!」

 太田が俺に缶を差し出してきたから炭酸吹きそうになった。
 え? 交換して味確かめろってこと? え? 俺口付けたけど……

 若干鳥目の俺には太田の表情が読み取れない。冬の練習で薄暗くなって来たら球見えにくかったんだよなー。でもこの情報は俺の本能が今は言うなと指示してくるから言葉をのんだ。
 鳥目の説明から、今だって手を引っ張って誘導してくれてるのに、暗がりはべったりの介護になるだろう。黙っとこう。
 内緒の代わりに、缶を交換した。