そして迎えた、十月中旬の日曜日。

 春子は休日、夏美も珍しく朝食を一緒に食べたので仕事に余裕があるのだろうと踏んで、暦はふたりに夕食のリクエストを尋ねた。

「ねえ、今晩は張り切ってふたりの好きなものでも作ろうかと思っているの。なにがいい?」
「あ、暦さん、ごめんなさい……私、今日実家に帰るんで、夕食いりません」

 すまなそうに肩をすくめる夏美。暦が軽くショックを受けていると、春子が追い打ちをかける。

「私もです。何時になるかわからないので、暦さんもたまには手抜きデーにしてくださいね」
「……そう」

 ますます落胆する暦に気づくことなく、ふたりは早々と朝食を食べ終え、自分たちの食器を片付ける。そしてゆっくり朝食をとる暦をその場に残し、リビングダイニングを後にした。

 暦は寂しさで居たたまれなくなり、食べかけの朝食にラップをかけて冷蔵庫にしまう。

 ひとりで空回りした自分が恥ずかしかった。

「……ダメダメ。朝からこんな気分じゃ」

 こんな日は家にこもっていたら本当に腐ってしまう。暦は素早く家事を済ませると、外出の準備を始めた。


 暦がタクシーで向かった先は、ある寺院だった。長居はしないので駐車場でタクシーを待たせ、広い境内に隣接した墓地に移動する。

 彼女がまっすぐ足を進めたのは、一番奥まった場所にある、いくつもの地蔵が並んだ一角。中央に立つ大きな地蔵を取り囲むように、小さな地蔵が並んでいる。

 この世に生まれる前に亡くなった赤子を弔う、水子地蔵だ。

 暦は地蔵の前に立つと、水晶の数珠を左手に通し、目を閉じて合掌した。

 彼女がまだ結婚していた頃のこと。授かった大切な娘がふたり、この地蔵に見守られて天国へと旅立った。

 病院の医師も夫も誰も彼女を責めなかったが、暦は自分の無力さを恨んだ。

 とくにふたり目の時は、医師も検診のたび注意深く状態を診てくれたし、暦もできる限り安静を心掛けた。それなのに、またしても我が子を奪われてしまった。

 ふたりとも〝女の子〟だとわかった直後だった。