陽が傾き始めた頃、僕達は近くの公園に寄った。
「そろそろ帰るか」
「そーだね」
僕はまともに夏目の顔が見れなくて、視線を逸らすと、その先に噴水が見えた。しかもちょうど水が出ているタイミング。
「夏目、噴水!」
僕は夢中で噴水の方に走って行く。子供の頃からこー言うの好きだった。見るだけで遊園地に行ってる感じがしてワクワクするんだ。
「僕昔からこー言うの好きなんだよね」
「ふーん?そうなんだ」
そう言って夏目が噴水に向かって手を伸ばすから僕も真似てみる。
「冷た」
「ハハッ、ほんとだ。冷たい」
思わず溢れた笑み。
何か本当に心から楽しいと思う瞬間で。ふと夏目の顔を見ると、目を細め、優しく微笑んでいたから心臓がギュンとなった。
は、何だよ。コレ……。
謎の感情に逃げるように数歩後退ると、何かに躓いてバランスを崩してしまった。
「危ない!」
反射本能でギュッと目を閉じて、そのまま倒れてしまった僕は噴水の中に入ってしまったらしく、大きく水飛沫を上げてしまった。
最悪……。
目を開ければやっぱり僕は噴水の中にいて。
目線の先に僕が履いていたズボンとは違う生地が見えて、思わず顔を上げた。
「は……何で……?」
「わり。止められなかったわ」
目の前で全身ずぶ濡れの夏目が申し訳なさそうに笑っていた。
その姿に胸が苦しくなる。
何でそこまで……。
「それもキュンポイントなのか!?」
「……そんな訳ないじゃん」
俯く夏目の髪の毛からポタポタと雫が落ちて行く。
「教えるだけならそこまでしねーって」
ボソリと呟く夏目の声は、噴水の勢いによって僕の耳に届く事は無かったんだ。
「怪我とか無い?」
「うん……」
「そ。藍が無事で良かった」
「……」
濡れた前髪を後ろに持っていくようにかき上げたその姿は、夕日と噴水のせいかキラキラ輝いていていつも以上にかっこよく見えた。
でもどこか、寂しそうな横顔に僕は何も言えなかったんだ。