日曜日。

僕は急いで待ち合わせの珈琲店に入った。


カランカランとベルの音が響けば中から店員が出てくる。


「1名様ですか?」
「いや、連れが先に……」

そう言いながら店内を見渡すと、夏目が手を挙げてくれたから一発で居場所がわかった。



「ごめん、遅くなった」
「寝坊?」
「ん?まぁ……」

実は楽しみで寝られませんでした。なんて言えるかよ。
久しぶりの勉強だぞ?待ち遠しかったに決まってんじゃん。


それにしても……普通だな。
夏目の私服ってどんな感じなんだろうって思ったけどTシャツにジーンズって……。

イメージは2パターンあった。
イケメンバージョンと根暗バージョン。まさか後者で来るとは……夏目の本当の姿は根暗の方か?
いや、彼女とかいたら絶対後者で来るわけないだろ。


「……そー言えば夏目って彼女いねーの?」
「何急に」
「日曜に誘うくらいだからどーなんかなって」
「いねーよ」
「ふーん」

いてもいなくてもそれぞれ納得出来るから、これ以上聞くのは止めた。別にそれ程興味も無いし。



「てかビックリしたんだけど」
「昨日のメッセージの事?」
「あぁ」


実は昨日、夏目に来週の水曜日に大輝主催の合コンをやる事になったと連絡を入れた。もちろんミキちゃんの所と。

そしたら夏目の奴、『じゃあ日曜に実践しよう』とか言い出すからあの時はマジで意味わからなかった。
詳しく聞けば漫画で学んだ事を実践していくみたいで、それはそれで面白そうだったからワクワクして眠れなかったって訳。

本番前に指導ってありがたすぎる。


「次いでだからココで昼食って行く?」
「そーだな」


当たり前だけど珈琲店だからメニューを開くと珈琲の種類がめっちゃ記されていて。珈琲が苦手な僕は他の飲み物を探す。

「決まった?」
「んー待って!」

どれにしよう。飲み物……飲み物……!

やっとの思いで見つけたソフトドリンクの文字。
この際、大好きなグレープなんてどうでも良い。珈琲以外でいけるんだったら何でも飲む!!


「決めた!」


僕の言葉に夏目はボタンを押した。
そしたら直ぐに店員が来て、夏目が目で合図をするから僕が先に注文する。



「えっと、このWチーズ&肉増し増しベーグルとミックスジュースで」
「野菜たっぷり生ハム&マスカルポーネと……この本日の珈琲って何ですか?」
「そちらは──」


僕は目を丸くした。
今まで友達とこーやってご飯を食べる時はみんなジュースだった。珈琲頼む奴なんか1人もいなかったのに……夏目って大人なんだな。僕と違ってベーグルも野菜メインだし。かっこいい……。


ん?

うわっ。そー言う事?
そー言う些細な所がイケメンへの近道って事か!?

確かに僕の注文と夏目の注文はかっこよさに差があり過ぎる。こんな洒落た店にも普段入る事ないし……。
くそーそう言う事かぁ。


「ん?何?」
「イケメンの恐ろしさを目の当たりにしただけ」
「は?どー言う意味?」

無自覚かよー。余計タチ悪い。

「別にー?どーせ僕はお子様ですよ」
「は?だから何不貞腐れんの」
「何でも無いでーす」

別に良いもんね。勝手に夏目のマネさせてもらうんで。


例え注文した物がテーブルに並べられた時に、改めて目の当たりにした“かっこいい”の差に対し、僕が2回目のダメージを受けたとしても。



「うっまぁ〜」

あまりの美味さに思わず笑みが溢れる。
冗談抜きで美味いんだけど。


「良かったな」

また夏目がフッと笑うから、喉の所がギュッとなった。
ほんと、最近よく笑うようになったよな。

しかも地味にその笑い方好きって言うね……絶対に本人には言わないけど。


気を紛らわせる為にパクパクとベーグルを食べ続ける僕。ボロボロと溢れるからあんまり上手く食べれないけど。



「付いてるぞ」

不意に夏目の指が僕の口元に触れた。
グイッとソースを拭ったのはわかったんだけど……。


「…………は?」


その指を舐めるとは思わなかったから理解するまでに時間がかかった。



「はあぁぁぁぁ!!?」

大声を上げて、思わず立ち上がった僕に夏目は耳を押さえる。


「うるせぇ。てか座れ」
「ぼ、ぼぼ僕は男だぞ!!?」
「知ってるわ」

な、何でそんな冷静でいられるんだ!?
僕はもう気が動転して冷静ではいられないと言うのに……!


「言っただろ。実践するって」
「ぅえ!?そ、そうかもしれないけどさ、僕は男だぞ!?」
「2回も言わんでいい」
「だ、だって……!」


あーもう何なんだよ。理解出来ねぇ。
顔が熱過ぎて、僕はパタパタと自分の手で煽ぐ。


「そんなんで赤くなって、今後好きな奴とどう接していくもりなんだよ」
「う、うるさい!」
「藍も早くやってみせろよ」

くっそー。その顔ムカつく。そのニヤリと口角を上げてる顔!
マウント取りやがって〜〜!!



その後、言うまでもなく僕には少女漫画の様には動けなくて。ほんと些細な事ばっかりだったのに、意識しまくった僕は夏目の1つ1つの行動にドキドキしっぱなしだったんだ。

夏目が舐めたりなんかしなければ……。