『黒稜を助けて』
「え……?」
春子の声が聴こえた気がして、桜は辺りを見回す。
けれど辺りにはもう何もなく、真っ白な世界が広がっているだけだった。
『黒稜を助けてあげて』
ふっと正面に春子が現れる。桜とそっくりな春子の姿が。
『黒稜のあやかしの力を沈められるのは、貴女だけ。貴女が死んだら、きっと黒稜はもうあやかしの力を抑えられなくなる。絶対に生きて。二人は幸せにならなくてはいけない』
春子の力強い言葉に、桜はこくんと頷いた。
にかっと笑った表情は、やっぱり桜とは似ても似つかなくて、きっと黒稜は春子のこういう明るいところに惹かれたのだろうなぁ、とこの状況にしては場違いなことを思った。