黒稜は然程驚いた様子も見せず、ふんと鼻を鳴らした。
『まぁ、桜を攫うくらいだ、どうせ雪平の人間だろうとは思っていた。父の復讐とでも言うつもりか?』
「まぁ、そんなとこ。ねえ、どうやってあやかしの力なんか手に入れたんだ?教えてよ」
李央は手品のようにさっと札を出すと、それを黒稜に向かって投げる。
(早い…!)
さっと避けた黒稜は少し離れたところに桜を降ろした。
『桜、少しここで待っていろ。すぐに終わらせる』
「はい…」
黒稜は李央の元へと戻る。
「あやかしのくせに、そんなに人間が大事なの?」
『お前こそ、父親に忠義を尽すような人間ではないだろう?』
「さあて、どうかな?」
飄々としているが、李央も黒稜に劣ることのないくらいに強い陰陽師であるらしかった。
先程から力の応酬が続いているが、二人の力はほぼ互角のように思われる。
『呪いについて知っていることがあるなら早く吐け』
「嫌だね、もう少し楽しませてもらう」
李央は楽しそうに黒稜に力をぶつけている。
桜はその様子をはらはらしながら見守っていた。
(彼は本当に雪平の復讐で私を狙ったの…?それにしては今の状況を楽しんでいるような…?)
父、雪平 勝喜の復讐と言っていた割には、特に憎悪や負の感情が読み取れない。ただただ黒稜との力のぶつけ合いを楽しんでいるようにも見える。
「俺の親父をボコボコにしたって言うから、どんなに強いのかって思ってたけど、御影の力ってこんなもん?これなら俺の余裕勝ちだなっ!!」
強大な力のこもった札の応酬。それを黒稜は紙一重で燃やしていく。
「あやかしの力だってそんなものじゃないんだろ?早く力を解放しろよ!」
李央の挑発に乗ることなく、黒稜は淡々と攻撃を捌いていく。
途端に李央の攻撃が止んだ。大きなため息と共に、黒稜を睨み付ける李央。
「つまんないな。全然本気にならないじゃん。どうしたら俺と本気で闘ってくれる?」
それに黒稜は答えることなく、李央を見つめ続ける。
「ああ、そうか。お前は、こうした方が本気になりやすいんだったな」
そう呟いた李央が、桜と黒稜の視界から消えた。
瞬間、桜は苦しさから思わず「うっ」と声を漏らした。
(上手く息が、吸えない……?)
桜は自分の身に何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
すぐ傍には李央が立っていて、にっと笑っている。
気が付くと桜の首に札が巻き付いており、喉を締め付けていた。