『桜は返してもらう』

 振り返ると、そこにいたのはあやかしの姿をした黒稜だった。

「黒稜様!」
『遅くなってすまない。さぁ、帰ろう』
「どうしてここが…」
『匂いで分かる。今は特にあやかしの力があるからな』
 (に、匂いって、私の匂い…!?)

 桜が混乱している間にも、黒稜は桜の手足を縛っていた札を狐火のような火の術で焼き切り、さっと桜を抱え上げて小屋を出た。

「く、黒稜様っ!?」
『しっかり捕まっていろ』
 今にも物凄い勢いで走り出そうとする黒稜に、きょとんとしていた金髪の青年が声高に笑い始めた。

「本当だったのかよ!?御影の人間があやかしに魂を売ったって話は!」

 黒稜の姿を見て驚いていた青年は、愉快そうに笑い続ける。

『誰だ、お前は。桜に何かしていないだろうな』

 黒稜が不快そうに青年を睨みつける。

「おー怖っ!何もしてないっつーの。少し触っただけで、真っ赤になってたけどな」

 青年のからかうような言葉に、黒稜は何も言わず青年の方へと狐火を放った。しかし青年はそれを平然と避ける。

「あっつ!何するんだよ!」
『目障りだ、消えろ』

 黒稜の冷たい声が暗闇に響き渡る。
 しかし青年は怯むことなく、平然としている。

「そんなこと言っちゃっていいのかなー?俺、もしかしたらその子の呪い解けるかもしれないよ?」

 青年の言葉に、桜と黒稜は目を見開いた。

『何?』
「その子、強力な呪いを掛けられてるだろ?俺との勝負に勝ったら、解術方法を教えてあげてもいいけど?」
『勝負だと?』

 青年は相変わらず飄々としていて、何を考えているのか分からない。

『桜を攫うようなやつが、簡単に解術式を教えてくれるとは思わないな』
「じゃあ、理由を変える」
『何?』
「この前、ボコボコにしてくれたみたいじゃん?俺の親父」
『親父?』

 まさか、と思う桜と黒稜に、金髪の青年はこう名乗った。

「そう、俺の名は雪平 李央(ゆきひら りおう)。御影 黒稜、お前がボコボコにした雪平 勝喜の息子だよ」

(雪平の、息子…!)