桔梗には、もう少しで国お抱えの陰陽師になれる、などと言ってしまったがそんな予定は全くなかった。
それどころか御影は、他の陰陽師の家系、北白河や雪平よりもかなり劣っていて、国から声が掛かるのは難しいと思われた。
「くそっっ!私に、もっと陰陽師の力さえあれば…っ!!」
他の陰陽師を圧倒する力さえあれば、国お抱えの陰陽師になることは容易であり、桔梗に十分な医療を受けさせることが出来ただろう。
しかし、そんな強大な力、一朝一夕で身に付くものではない。
「どうする…!どうしたら……っ」
稜介の悲痛な声が漏れる。
「このままでは…桔梗が死んでしまう……っ」
情けない稜介には勿体ないくらいの気丈で優しい女性だった。
頼りない稜介を、時には叱咤ししかしいつも優しく包み込んでくれていた。
これほどに素敵な女性に巡り合うことは、きっともう来世でもないだろうと、稜介は常日頃から思っていた。
しかしそんな桔梗が、日に日に弱っていっている。
大切で、大好きで、愛しい人。
そんな桔梗を失うことは、稜介にはできなかった。
本をめくり続ける稜介の足元に、ひらりと一枚の紙が落ちた。
何かについて記されていたその紙に、稜介は釘付けになった。
「そうか、そうか……!その手があるじゃないか……!!」
にたりと笑う稜介。
(だめ!それだけは……!)
稜介の手に握られていたのは、呪いに関する文献だった。
桜は稜介へと手を伸ばす。
しかしその手は届くことなく、また世界が暗転する。
最後に見た稜介の顔は、おおよそ穏やかだった稜介からは想像もつかない、狂気に満ちた表情だった。