そうしてまた場面が変わって、御影の家には賑やかな赤子の声が響いていた。
桔梗が庭いじりから腰を上げて、縁側に寝かせていた子供をあやしにかかる。
「あらあらどうしましたか?おしめかしら?今取り替えますからね」
部屋に入った桔梗が急にふらっと壁に手を付いた。
(危ない!)
桜は咄嗟に駆け出し、桔梗を支えようと手を伸ばした。が、桜の手をすり抜けて桔梗はばたんと床に倒れてしまった。
世界が暗転し、次の瞬間また桔梗が部屋で寝ていた。
顔色は悪く、何か苦しそうでうなされているようでもある。
その枕元には、稜介が沈痛な面持ちで自分の拳を握りしめていた。
「桔梗…」
小さな呟きに、しかし桔梗は少し目を開けた。
「稜介、様…」
「桔梗!」
「もう…そんな泣きそうな顔をなさらないでくださいな。私は大丈夫です…」
「しかし…」
「黒稜は、…どうしていますか?」
「仲の良い友人夫婦に見てもらっている。黒稜なら大丈夫、元気だよ」
「そう、ですか…」
ほっとしたように微笑む桔梗だが、その笑顔には力がなく、今にも目を閉じてしまいそうだった。
桔梗は黒稜を産んですぐ、病に侵された。
あの日倒れた桔梗は、病と診断され、それから床に伏していた。
「もう少し、もう少しで国お抱えの陰陽師になれるからな。そうしたら、もっといい治療も受けられるし、いい薬だって買える。すぐに良くなるからな。それまでの辛抱だ」
「はい…。しかし稜介様、ご無理なさらないで…。私は貴方様さえ、元気でいてくれたら良いのです…」
「桔梗はいつも私の心配ばかり……。私は大丈夫だ!自分の心配をしていなさい」
「はい、…」
桔梗は力なく笑って、目を瞑った。
寝息を確認した稜介は、静かに部屋を出ると足早に書斎へと向かった。
書斎にやってきた稜介は、髪が乱れる程に頭を掻き毟った。
「くそっ!くそっ!!どうしたら!!どうしたら桔梗を救うことが出来る!?」
辺りに散らばった書物を手当たり次第にめくりながら、稜介はかなり焦っていた。