雪平の言葉と同時に、地面が揺らぎ、雪平の後ろに鬼のような面をした大きなあやかしが姿を現した。
 桜と黒稜は、驚きで目を見張った。

『雪平、貴様、あやかしと手を組んだのか…!』

 黒稜の言葉に、雪平は高らかに笑う。しかしその笑い声も雪平の見た目も、先程家を訪ねて来た時とは別人のようになっていた。

 辛うじて人の形は保っているものの、目元は真っ黒になりどろどろとした黒い空気を纏っている。

『手を組むだぁ…?そんなこと、この高貴なる陰陽師の私がするわけないだろうがぁ!」

 使役した鬼と同じような牙を見せる雪平。

『さぁ!!御影諸共死ねぇぇ!北白河 桜ぁあぁ!!』

 雪平は使役する鬼へと命令を下す。
 鬼はゆっくりと動きながら、こちらに強大な炎のつぶてを投げつけてきた。

 黒稜が咄嗟に二人の周りに結界を張り、それを凌ぐ。

『そんな結界、いつまで持つかなぁ!?』

 雪平の高笑いが辺りに響く。
 桜は先程の話も目の前の光景も、信じられずにいた。

 桜に呪いを掛けた張本人、そして、あやかしと手を組み異形の者となりかけている雪平。

 古代の文献には、陰陽師が退治すべきあやかしと手を組み、街を襲った記録があった。
 そして、その悪いあやかしと手を組んだ人間が、辿る末路も。

「黒稜様…!このまま、では、雪平は死んで、しまいます…!」

 桜の言葉に、黒稜は信じられないものを見るような目をした。

『何を言っているのだ?雪平はお前を殺そうとしているんだぞ?桜に呪いをかけた相手に、何を気遣う必要などある?』

 黒稜の言葉はもっともだ。
 陰陽師の力を奪い、聴力さえも奪った、桜に呪いをかけた張本人。
 桜の陰陽師としての道さえも奪った人間だ。
 桜だって雪平は許せない。そう簡単に心の整理などつこうはずもない。
 しかし。

『御影としても落ち度はあるが…。まずは桜を守る。雪平には、消えてもらう』

 桜は首をぶんぶんと横に振った。

「だめ、です!命を、軽んじては…」
『しかし、』
『何をごちゃごちゃ言っている!?!?」

 雪平が自らの力を振り絞り、使役するあやかしへとその力を流しこんでいく。